ANALYSIS

世界最大の海軍を建設した中国、今後の出方は<下> 近海防御か遠海防衛か

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中国初の国産空母「山東」。海南省の三亜海軍基地で2019年12月17日に撮影された写真/Li Gang/Xinhua/Getty Images

中国初の国産空母「山東」。海南省の三亜海軍基地で2019年12月17日に撮影された写真/Li Gang/Xinhua/Getty Images

香港(CNN) 中国本土や東アジアで領有権を主張する地域の防衛について、中国政府は「近海防御」と呼んでいる。

中国は海軍を大幅増強すると同時に、330万平方キロに広がる南シナ海のほぼ全域で領有権主張を強化。岩礁や砂州で工事を行い、ミサイルや滑走路、兵器システムで要塞(ようさい)化された人工島を造成してきた。

「南シナ海の島や岩礁には、国家主権を守り公海上の軍事プレゼンスを維持する上で独自の利点がある」。こう指摘するのは、中国船舶集団が出版する北京の雑誌「艦船知識」の2020年12月の記事だ。

ただし同誌によると、こうした人工島は単独では持ちこたえられない。有事の際、南シナ海南部の前哨拠点は、船で1日以上かかる中国南岸付近から増援が必要となる可能性がある。

米海軍情報局の上級情報アナリスト、ジェニファー・ライス氏とエリック・ロッブ氏は先月、海軍大学中国海事研究所の論文で「中国は自国経済の依存する海峡や航路を支配しているわけではなく、『海上で危機や戦争が起きた場合、(中国の)海上輸送は寸断される可能性がある』」と指摘。「ますますグローバル化する中国の経済権益に対応するためにも、地域に重点を置く近海防御では不十分だ」と述べた。

両氏によると、中国は自国の軍事力をグローバルな国益の保護に活用するため、「遠海防衛」の実施を始めた。

「遠海防衛の考え方には、人民解放軍海軍(PLAN)に『グローバル展開』を求める中国政府の指示が反映されている」

そこにはイメージの問題も絡んでいる。この数十年、米海軍の空母が遠海に展開するイメージほど効果的な戦力投射はなかった。これこそ中国が渇望するものだと、専門家たちは指摘する。

「中国軍に関する専門家の間では、人民解放軍にとって海外権益の保護は至上命令であり、中国の大国としてのイメージ確立にはPLANの派遣が不可欠だと示唆する声もある」(ライス氏とロッブ氏)

コルベット数十隻ではこの目的は達成できない。中国はそこで、誘導ミサイル駆逐艦や原子力潜水艦など、空母任務部隊を構成する艦艇の生産拡大に乗り出した。

PLANは空母2隻を就役させているが、中国パワープロジェクトによると、いずれも補給なしでの航続時間は1週間以下にとどまる。そのため、使用に適した場所は遠海よりも南シナ海となる。

もっとも中国は目下、新たな空母を開発・建造中だ。開発中の最新空母は原子炉や電磁カタパルトを備え、既存空母の艦載機を火力や航続距離で上回る航空機を発艦させる能力を持つとみられている。

ライス氏とロッブ氏によると、2015、19両年の中国国防白書では、国際平和維持活動や災害救援、海軍外交の支援に長距離海軍部隊が必要になると指摘している。これらは言い換えれば、中国国旗を海外に掲げる活動といえる。

ただ、両氏は警鐘も鳴らす。「こうした活動の平時の性格ゆえに、遠海防衛の戦時の用途が見えにくくなっている可能性がある。遠海防衛という名称が持つ防御戦略のニュアンスとは裏腹に、このコンセプトは戦時の攻勢作戦を促すものだ」

中国初の空母「遼寧」が香港沖に到着する様子=2017年7月7日/ANTHONY WALLACE/AFP/AFP/Getty Images
中国初の空母「遼寧」が香港沖に到着する様子=2017年7月7日/ANTHONY WALLACE/AFP/AFP/Getty Images

今の中国海軍に可能なこと、そして今後

中国海軍はどのような敵にとっても手ごわい相手になりそうだが、現時点ではその野心に見合う実際の能力は有していない。

まず、PLANは現状の能力よりはるかに強力な航空団を擁する空母戦闘群を持つ必要がある。

PLANで就役中の空母2隻は通常動力型で、旧ソ連の古い設計が基になっている。このため空母自体の航続距離や、艦載機の航続距離と数、艦載機に搭載される弾薬の量は制限される。

端的に言えば、中国の空母は米海軍の保有する空母11隻には到底及ばない。これらの米空母の場合、1隻が外国の沿岸沖に展開するだけでも示威効果がある。

また、中国の空母はグローバルに戦力投射するどころか、西太平洋以遠に展開したことすらない。インド洋や地中海、北大西洋、ロシア北部の港湾にPLANの艦艇が派遣されたことはあるものの、こうした例は回数も頻度も少ない。

国営環球時報は先ごろ、誘導ミサイル駆逐艦を筆頭に少なくとも5隻で構成される中国海軍の遠征グループが赤道を越え、外海に入ったと報道。「中国が外洋海軍(ブルーウォーター・ネイビー)の建設をにらむ中、人民解放軍はこうした任務を通じて公海に慣れることが可能になる」と伝えた。

環球時報は1年前にも、同様の遠征グループが太平洋に展開したと報じていた。米空軍大学中国航空研究所の研究責任者、ロデリック・リー氏はこの件に触れ、次のように記している。

「PLANは共同作戦やダメージコントロール、兵たん、諜報(ちょうほう)の分野で長足の進歩を遂げている。近い将来、戦時に米海軍の港湾施設のすぐそばで作戦行動を行う能力を手にする可能性もある」

しかし他の専門家からは、PLANの遠洋海軍化が実現するのは数十年先ではないにしても、数年先になるとの指摘も出ている。

水陸両用ドック上陸艦「沂蒙山」のデッキに立つ兵士たち=2019年、青島付近の海域/Mark Schiefelbein/AFP/Getty Images
水陸両用ドック上陸艦「沂蒙山」のデッキに立つ兵士たち=2019年、青島付近の海域/Mark Schiefelbein/AFP/Getty Images

台湾問題

ただ、短期的に焦点となるのは台湾問題だ。台湾は民主的な自治を行う島だが、中国政府の有力者は同島を、自国の歴史的かつ不可分な主権領土だとしている。

習近平(シーチンピン)国家主席は2019年の演説で、「我が国の領土については一寸たりとも」譲歩しないと表明。「我々は主権と領土の一体性を守り、祖国の完全統一を成し遂げるべきだ」と述べた。

台湾に関しては多くの点で、習氏はまさにこれを目的にPLANの艦隊を構成したといえる。

既に触れたように、コルベットや沿岸警備艇のような小型艦艇に戦力を集中させる体制は沿岸付近での戦闘に適している。しかも、台湾と中国本土の間には幅130キロほどの比較的浅い海峡しかなく、コルベットにとって理想的な環境だ。

人民解放軍の主力艦の建造についても、台湾というレンズを通して分析することができる。

同軍では昨年後半、就役中の空母2隻の約半分のサイズとなる排水量3万5000~4万トンの多用途艦「075型強襲揚陸艦(LHD)」が試験航行を開始した。

米戦略国際問題研究所(CSIS)の分析によると、075型は強襲揚陸艦として世界最大の規模を誇り、ヘリコプター運用のための全通飛行甲板や、ホバークラフトや水陸両用車両を発進および回収できる注水型ウェルドックを有する。地上部隊900人を輸送し、ヘリやホバークラフトにより上陸させることも可能だ。

ただ、もし中国が台湾に侵攻する場合、同島の支配と占領には900人をはるかに上回る地上部隊が必要となる。

そこで再び注目されるのが、海警局や海上民兵、他に類をみない規模で量産される商船を含む中国の艦艇数だ。

新アメリカ安全保障センター(CNAS)の上級研究員、トマス・シュガート氏は議会証言で、「中国は台湾侵攻の成功を確実にするため、持てる海上戦力を全て投入すると想定するのが賢明だろう」と指摘した。

「ダンケルクの戦い(第2次世界大戦中に英軍がフランスから一斉撤退した作戦)を逆転させたような形になる。グレーに塗装されたPLANの揚陸艦や護衛艦数十隻だけでなく、数百隻に上る漁船や商船、海警局および海事局の船で台湾海峡が埋め尽くされる展開を想定すべきだ」

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