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失策重ねるチェコ、コロナ新規感染者数が過去最悪に迫る

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チェコ北東部カルビナの病院で新型コロナ患者の対応にあたる医療関係者=1月11日/Gabriel Kuchta/Getty Images

チェコ北東部カルビナの病院で新型コロナ患者の対応にあたる医療関係者=1月11日/Gabriel Kuchta/Getty Images

(CNN) 世界の新型コロナウイルスの流行状況を示すマップで、チェコ共和国は先行きの悲観的な小国として表示される。世界の新規感染者数が6週連続で減少する中、人口1000万人のこの中欧の国では過去最悪に近い新規感染が生じている。

チェコでは今、より感染力の強い新たな変異株の流行が拡大し、病院は崩壊寸前だ。死者数は2万人を突破し、死亡率は世界最悪級となっている。

これほどひどい結果となるべき理由はない。比較的裕福な欧州連合(EU)のメンバー国であり、ワクチンや医療器具、追跡用のIT技術は入手可能だ。民主的な政府、評価の高い医療システムを有し、経済も十分強い。

人口10万人あたりの日次の新規感染者報告数(7日間移動平均)。チェコは赤色の線、欧州の平均値は青色の線。米ジョンズ・ホプキンス大学システム科学工学センターの2月24日までのデータに基づき作成/Krystina Shveda and Natalie Croker, CNN
人口10万人あたりの日次の新規感染者報告数(7日間移動平均)。チェコは赤色の線、欧州の平均値は青色の線。米ジョンズ・ホプキンス大学システム科学工学センターの2月24日までのデータに基づき作成/Krystina Shveda and Natalie Croker, CNN

だが今のチェコは危機的状況に陥っている。専門家はいくつもの小さな失策、決定の遅れ、公衆衛生上のメッセージ伝達の失敗が積み重なった結果だと指摘する。

世界の大部分が制限緩和の検討に入る中、チェコ政府は先月26日、厳格なロックダウン(都市封鎖)を今月1日から実施する以外に選択肢はないと認めた。

英オックスフォード大学の研究者ジャン・カルベイト氏は「政府は不幸にも現在の病院の収容能力を基に意思決定をする戦略を選んできてしまった。そうした数値はあまりにも遅れてやってくる」と言及。人々がコロナ感染後、医療機関にかかるまでには時間を要するため、病院の患者数は流行状況をかなり遅れて描き出すと語る。

「対策を現状に応じて行うか、10日間たってから行うかでは非常に大きな違いがある。再生産指数が1.4の場合、10日間の遅れは流行が倍になることを意味する」(カルベイト氏)

チェコ政府にコメントを求めたが回答はない。だが、バビシュ首相は議会で、政府が「あまりにも多くのミス」をしたと認めた。一方、今は過去を議論するときではないとも言い添えた。

不十分で遅すぎる対応

オストラバ大学医学部長で同国トップ級の疫学者ラスティスラフ・マダール氏は、現在の危機を招いた根本原因は3つあると指摘する。一つ目は昨年夏、政府が専門家の意見に耳を傾けずマスク着用の再義務化を拒否したこと、二つ目はクリスマス前に商店の再開を認めたこと、三つ目は1月上旬の新たな変異株の流行発生に対応を怠ったことだ。

マダール氏はコロナウイルス関連の制限で政府の諮問グループの調整官を務めていた。だが、同グループが昨年8月後半に流行再燃の兆しがあるとしてマスク着用の義務化を求めたものの、首相が助言に従うことを拒否。それを受けて同氏は辞任した。

マスク義務化への反対は、政府が9月初めの学校再開を決めた時期と重なった。「約200万人の人々の移動が増えることになり、(流行が)爆発的に増えた」とマダール氏は語る。

政策の決定には政治も影響した。首都プラハのカレル大学のダグマー・ジュロバ教授は「再流行を抑えるための時間はまだあったが、実行されなかった。選挙が近づいていたからだ」と指摘。カルベイト氏も「多くの欧州諸国が第2波を経験し、チェコだけというわけではなかった。だがチェコは他国と異なり第2波を抑えようとしなかった。選挙が影響していたと思う」との見解を示す。

バビシュ首相は、コロナ対策の制限は代償が大きく、不人気だったと述べる一方で、政府の決定は選挙が原因ではないと主張。野党の政治活動をやり玉に挙げ、地方選挙はコロナ禍で起きる最悪の事態だったと述べた。

マダール氏は「野党もこの機に乗じようと躍起だった。対策を批判し、顔を覆うマスクを『(動物の)口輪』とやゆし、感染者数がまだ低いのになぜマスクを着用すべきなのかと疑問を呈した」「問題は我々が今見える数値に対して対応するわけにはいかないということだった。もしそれをすれば我々は2週間遅れになる」と語る。

政府の後ろ向きな姿勢で、流行は制御不能に陥ることになる。

10月後半には、強硬なロックダウンが不可避になった。バビシュ首相は政府がミスをしたと認め、国民にロックダウンに従うように求めた。「こんな事が起きるとは思わなかった」との発言も飛び出した。

だが次の過ちはすぐに起きた。

クリスマス間近で感染者数が減少し始めたところで、政府は我慢ができなくなり、安全な経済再開のために自ら決めたデータに基づくルールを無視する決定を下した。11月に導入されたPESシステムは疫学的状況に基づき政府の対応を決めるためのもので、緩和にはデータの裏付けが必要との意図だった。リスクのレベルは再生産指数や陽性率、10万人当たりの感染者数など多くの要因から決定される仕組みとなっていた。「政府は自分のルールに従わなかった。このシステムが彼らに伝えていたことを無視した」とカルベイト氏は語る。

マダール氏も「政府は圧力に耐えられなかった。制限を緩和して、人々が外出してクリスマスの買い物をすることを認めた。まだ感染数はロックダウンが始まる以前より高かったにもかかわらずだ」と指摘する。クリスマスにかかる緩和策は多くの感染数の上にさらに感染を重ねる結果となり、クリスマス後のロックダウンにつながった。

政治活動の影響は秋の選挙で終わらなかった。今年、また別の重要な選挙があることが主な要因だ。カルベイト氏は「すでに選挙戦の時期に入り、政党間で合意形成を図ろうとする意欲はそがれている」と語る。

ジュロバ氏は「政府は専門家の話を聞こうとせず、政治的なニーズに基づき流行に対応している。また、国民に対策を説明するときに政治家、主に首相が行っているが、そうすると一部の国民は政治的な理由からルールを無視しがちになる」と指摘する。ドイツのような国々は国民への説明を専門家に任せているという。

だがバビシュ首相は、国民への説明を専門家に任せるべきとの批判を一蹴。「昨年夏、我々には多くの専門家がついていたが、何が真実なのか国民はわからなかった」と議会で述べた。

チェコの問題は不十分な経済的支援にもあるとジュロバ氏は語る。これにより、経済的余裕がないという理由だけでルールに従えない人々が出た。たとえば隔離措置を命じられた人々は雇用主から最初の2週間、平均給与の6割の額しかもらえなかった。また、企業は補償を受けられたものの、多くの業界団体が不十分だと批判している。

法執行にも問題があるとマダール氏は話す。「人々は疲れ、ひそかに会ったり、パーティーをしたり、山に散策に出かけたりしている。警察への反発もあり、警察に多くのことはできない状況だ」という。

首都プラハのドライブイン式の新型コロナ検査場で運転手からサンプルを受け取る医療関係者=2月23日/MICHAL CIZEK/AFP/Getty Images
首都プラハのドライブイン式の新型コロナ検査場で運転手からサンプルを受け取る医療関係者=2月23日/MICHAL CIZEK/AFP/Getty Images

政府のメッセージが政局まみれになるに従い、偽情報の拡散も始まった。「チェコに限ったことではないが、陰謀論を信じ、ウイルスのリスクが誇張されていると考える人が増えてきているようだ」とカルベイト氏は語る。

同氏によると、チェコのメディアが流行初期の混乱の一部を招いたという。「よくあるのが賛否両論のロジックだ。もしマスクが有益だと言うゲストを招くとき、それに反対するゲストも入れる。コロナウイルスは危険だというゲストがいる場合は、危険性はなく大半の人は健康だと語るゲストも招く」として、これが現実をゆがめたと指摘する。

「もちろん専門家の間でも議論は続いているが、疫学の分野を見れば約95%の専門家は意見の一致を見ていて、異なる意見を持つのは5%ぐらいだろう。だがメディアではそれが50対50になり、ソーシャルメディアでは20対80になりうる」(カルベイト氏)

自らの成功体験の犠牲者に

チェコの国民が陰謀論に傾倒しやすいのは、第1波を比較的無傷で切り抜けたことが要因かもしれない。それは早めにロックダウンを決めたおかげだった。

ジュロバ氏は「結果として、社会の大部分は何も悪いことは起こらなかったと受け止めた。巨大な代償を伴う対策は不要と感じた。何も起こらなかったのは対策を講じていたからだという事実に対する強調が足りなかった」と語る。

公衆衛生では、これは成功のパラドックス(逆説)として知られる。予防的措置が機能した場合、国民は脅威の深刻さを過小評価し、予防は時間の無駄だと信じるようになる。

「人々は対策による代償は見たが、ウイルスによる代償は見ていない。だから病気や状況の深刻さを疑う声が非常に大きくなる。何千人もの死者を出した経験がある国なら見られない光景だろう」(カルベイト氏)

チェコだけが成功体験の犠牲者ではないが、政府に説明能力が欠けていることが状況を悪化させているとカルベイト氏は説く。政府はコロナの周知キャンペーンを始めたが、焦点は制限やワクチンに向けられたものがほとんどだ。

そして今チェコが迎えている危機は、英国で初めて特定された感染力の高い新たな変異株が一部原因となっている。

ジュロバ氏とマダール氏は、チェコがこの変異株に十分な注意を向けておらず、感染の拡大状況や流行防止策の把握に必要な遺伝子配列の解析が十分行われていないと語る。英国は1月に厳格なロックダウンと集中的な遺伝子解析の実施をあわせて行い、状況のコントロールに成功した。チェコが遺伝子解析を始めた時には、英国の変異株は既に支配的になっていた。

カルベイト氏は「今行われている措置は従来の変異株なら抑え込むのに十分強力だ。だが、この新しい感染力の強い変異株に対しては不十分だ」と述べ、ジュロバ氏、マダール氏を含めた3氏とも政府が迅速に制限を強める必要があるとの認識を示す。

政府はこれまで、英国などの他国に比べると緩いロックダウンを実施していた。学校は閉鎖されていたが、小学1、2年生は例外だった。必需品以外を扱う商店は大半が閉まり、レストランは持ち帰りだけ認められている。

1日から始まった制限はさらに締め付けを強める。必要不可欠な理由以外での外出は認められない。最年少の子どももリモート学習に切り替わった。地域間の移動も禁止される。

だが専門家によると、政府は工場の閉鎖を拒否したことで大きなミスを犯したという。「新しい変異株はゲームのルールを変える。工場が開いていれば、人々は公共交通機関で出勤する。これにより医療システムが崩壊に向かう可能性がある」とマダール氏は語る。

同国の主要な産業労働組合は、工業生産や製造の停止を求めている。だが政府はそうした行為は代償が大きすぎると反論する。こうした産業はチェコの国内総生産(GDP)の約4割を占めている。

ジュロバ氏は「多くのチェコ国民がまだ状況の深刻さを理解していないのを心配している。そして本当に恐ろしいのは、毎日100人、150人と死ぬ必要のない人々が死んでいく状況を事実として受け入れはじめ、それが警戒すべきものだとはみなさなくなること、自然で避けられないことだとみなすようになることだ。真実は完全なる悲劇なのだが」と語った。

本稿はCNNのイバナ・コトソバ記者による分析記事です。

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