インドの新型コロナ感染者数が大幅に減少、その理由は?

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新型コロナ感染者数の減少が顕著なインド。要因は?/INDRANIL MUKHERJEE/AFP/Getty Images

新型コロナ感染者数の減少が顕著なインド。要因は?/INDRANIL MUKHERJEE/AFP/Getty Images

(CNN) 半年前に新型コロナウイルスの流行で危機に陥っていたインドだが、状況が大幅に改善してきた。1日の新規感染者数は昨年9月のピーク時の9万人あまりから2月には1万人あまりに減少。今月9日には首都ニューデリーでここ9カ月間近くで初めて1日の新型コロナによる死者数がゼロとなった。

インドではニュージーランドやオーストラリアのような大胆なサーキットブレーカー型のロックダウン(都市封鎖)を実施したわけではない。社会的距離の確保や医療体制の支援などはあるものの、経済活動や国内旅行も再開し、人々の日常生活は大部分戻ってきている。

インドの新型コロナウイルスの新規感染者数。薄い赤色が1日の新規感染者数。赤い線は7日間の平均値。昨年9月の10万人近いピークから今年2月中旬には90%近く減少した/Byron Manley and Natalie Leung, CNN
インドの新型コロナウイルスの新規感染者数。薄い赤色が1日の新規感染者数。赤い線は7日間の平均値。昨年9月の10万人近いピークから今年2月中旬には90%近く減少した/Byron Manley and Natalie Leung, CNN

状況の改善はワクチンによるものではなさそうだ。オックスフォード大学が集計したデータによると、100人当たりの接種回数は1回にも満たない。英国は同27回、米国は同19回に達している。

専門家は若年人口の多さや、都市で免疫獲得者が増加している可能性など、いくつかの要因が絡んでいるとにらんでいる。

ただ、感染者数の減少が現実を反映していない可能性もある。インド医学研究評議会(ICMR)によると、検査数は昨年9月の1日100万回以上から2月には1日60万~80万回に落ちた。

検査の陽性率も1月に6%近く、2月後半で5%超と高く、検査数が十分でない可能性がある。世界保健機関(WHO)は活動再開の目安を2週間、陽性率5%以下と示している。

さらに一部の専門家は、世界中でより感染力の高い変異株が広まりつつあり、警戒を怠るべきではないと警告している。

大都市での免疫獲得

感染数減少の要因の一つに、抗体を持つ人々の増加がありうる。アショカ大学のウイルス学者、シャヒド・ジャミール氏は「感染にさらされた人が多く、それにより防護されている」と語る。

新型コロナの免疫の働きは研究が進んでいるが、米科学誌サイエンスに今月掲載された研究によると、ウイルスに感染して抗体ができた場合、少なくとも8カ月間は再感染を防ぐ可能性があるという。

米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、インドではこれまでに1100万人以上が感染、15万6000人以上が死亡している。

ICMRが実施した3つの最新研究によると、抗体検査での陽性率は昨年8月下旬~9月には6~7%だったが、12月~今年1月には22%近くと3倍以上はね上がった。

人口が密集した都市ではさらに値が高い。ムンバイでは昨年8~9月の調査で住民の半数以上が感染を経験していると示唆する結果が出た。デリーでも今年1月の検査で住民の半分以上が感染しているとの結果が出ている。

地域医療の専門家、ヘマント・シェワデ医師は「これは非常に大きな増加だ。大都市では免疫の高まりで感染が大きく減少するかもしれない」との見方を示す。

だが、インド全体としては集団免疫には程遠い状況だ。大都市では感染を抑止するだけの集団免疫があるかもしれないが、国全体で免疫を獲得するには人口の大多数が感染やワクチン接種を経験する必要がある。報告されている1100万の感染者数は人口14億人の1%にも満たない。

仮に報告数が少ないとしても、まだ集団免疫の状態には至っていそうにない。

ジャミール氏はこれまでの抗体検査の結果を踏まえ、「感染にさらされた人数は1億5000万~9億人と推計可能で、おおよそ3億5000万~4億人がより合理的な推計値だ」としつつ、それでも人口の4分の1にしかならないと指摘。仮に最も高い9億人と想定すると人口の65%だが、それでも集団免疫としては十分でない可能性がある。

インド最大のワクチン製造業者、セラム・インスティチュート・オブ・インディアのアダール・プーナワラ最高経営責任者(CEO)は、「魔法のような90%の集団免疫かワクチンによる免疫の獲得には3~4年かかり、それまでは用心した方がいい」と語る。

人口構成、地理、生活環境

インドの若年人口の多さも感染者数が減少した要因の一つである可能性がある。2011年の国勢調査によると、人口の半分は25歳以下、65%が35歳以下だ。

ジャミール氏は「若い人々は大半が無症状か穏やかな病状で、検査を受けず報告数に現れない」と指摘する。

ジャミール氏はさらに、「衛生仮説」も要因かもしれないと語る。これは清潔すぎる環境にいると免疫システムが弱くなるとの仮説で、インドのように「感染症の発生がより多い」環境で暮らす人々は免疫機能が高まり、新型コロナに感染しても重症化するのを防ぐ可能性があるとの考え方だ。

ICMRで疫学研究のトップを務めたラマン・ガンガヘドカール氏は、地理的要因もあると指摘する。

「人口の70%は田舎にいて、(都会より)換気にすぐれ、人々の関わる集団も小さい」「田舎の人はバスや電車で移動せず、ネットワークは小さい。都会の人に比べて感染リスクは小さい」(ガンガヘドカール氏)

マスクとフェイスシールドを着用して授業を受ける印ハイデラバードの学校の生徒/NOAH SEELAM/AFP/Getty Images
マスクとフェイスシールドを着用して授業を受ける印ハイデラバードの学校の生徒/NOAH SEELAM/AFP/Getty Images

最後に、政府の取り組みも要因として挙げられる。昨春から9月のピーク前までの数カ月間、インドは厳しいロックダウンを実施した。その後移動やビジネスの大半は再開したが、まだマスクの着用義務や社会的距離の確保、集会の人数制限などは存在する。

ガンガヘドカール氏は「極めて長期間のロックダウンに人々が従い、(感染の)カーブを5~6カ月ずらすことができた」と語る。

当局が治療のリソースをより多く提供したことも、重症化や死亡数を抑えるのに寄与した可能性があるとジャミール氏は指摘する。連邦政府はデリーに医師を送り込んだり、検査能力の拡充や集中治療室(ICU)のベッド数300床増床などの対応をした。

現状に油断しない

感染者数の減少は希望を持たせるものだが、専門家からは市民に対し現状に甘んじない方がいいとの警告が飛ぶ。

報告数が減ったのは、検査数の不足や、地元政府が症例数の報告や登録でミスをしている可能性もある。公式の死者数は過小報告ではないかとの疑いで精査も行われている。

前述のシェワデ氏は、州によっては入ってくるデータが信頼性に欠ける場合があり、「ビハール州はよくない。症例数や死者数を報告していない」と指摘する。

ビハール州の保健当局にコメントを求めたが、回答を得られていない。

また、国全体の数値が改善しても、地域によっては状況が悪化しているところもある。マハラシュトラ州は感染急増を受けて、今月19日に公共の場でのマスク非着用に対する厳しい罰則など新たな制限を設けた。今後2週間で1日の新規感染者数が増え続ければロックダウンも視野に入れているという。

感染者数が減ることで、人々の間に危機は完全に終わったとの誤った安心感が広がることにも専門家は警戒している。

インドでは英国で初めて検出された変異株への感染が180例以上、他にも南アフリカやブラジルで初検出の変異株に感染した症例も出てきている。

ジャミール氏は、「ワクチン由来の保護は一部の人々しか享受しておらず、大多数には行き届いていない」と述べ、感染のピークを越えたからといって、次にありうる第2波からインドが守られているわけではないと注意を促した。

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