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金正恩総書記は「非核化できない」 脱北した元大使代理にインタビュー

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金正恩氏は「非核化できない」 脱北した元大使代理に聞く

韓国ソウル(CNN) 在クウェート北朝鮮大使館で大使代理を務め、その後脱北したリュ・ヒョンウ氏はこのほど、CNNの取材に応じ、北朝鮮の金正恩総書記が核兵器を手放すことはないものの、疲弊している北朝鮮経済に対する国際社会からの制裁を緩和するために核兵器の削減については交渉することもいとわない可能性があるとの見方を示した。

リュ氏が1年以上前に韓国に亡命してから初のインタビューとなった。リュ氏はCNNの取材に対し、「北朝鮮の核兵器は体制の安定と直接結びついている」と述べ、金総書記が自身の生き残りの鍵を握っているのは核兵器だと信じている可能性が高いと指摘した。

リュ氏はまた、これまでの米政権は北朝鮮との交渉前に非核化を要求することで自らを困難な立場に追い込んでしまったと述べた。

リュ氏は「米国は非核化から引き下がることができない。そして、金正恩総書記も非核化は出来ない」と述べた。

リュ氏はここ数年で亡命した北朝鮮高官のうちのひとり。2019年にはイタリアに駐在していた大使代理が亡命したほか、北朝鮮の駐英公使だった太永浩(テヨンホ)氏は2016年に亡命した。太氏はその後、韓国国会議員に選ばれた。

リュ氏と家族は2019年9月に韓国に亡命した。しかし、その行動は先週まで公表されなかった。リュ氏は、10代の娘により良い人生を与えると決断したと振り返り、リュ氏と妻はクウェートに住んでいた約1カ月の間に脱出を計画した。

リュ氏は、もし捕まれば、北朝鮮当局は何らかの罰を与えるため即座に全員を平壌へと送り返しただろうと述べた。金体制にとって亡命はとてもばつの悪いものであるとみなされ、軽んじられることはないという。

最終的に娘に計画を伝えたのは、彼女を学校に送るふりをして自動車を運転していたときだった。

リュ氏は当時の様子を振り返り、自由を見つけるために母親と父親と一緒に来るよう告げたと語った。娘はショックを受けたようだったが、「分かった」とだけ返事があったという。

リュ氏は家族を連れて在クウェート韓国大使館を訪れ亡命を申請し、数日後、韓国に渡った。

北朝鮮からの亡命には多大な犠牲が伴う。脱北者は北朝鮮に残してきた全ての家族とのきずなが即座に断たれるからだ。

リュ氏によれば、北朝鮮はたいてい、国を離れるのを思いとどまらせるため脱北者の家族や近親者を罰する。特に外交官はそうだという。海外に配置される人たちはたいてい、人質として利用するために子どもを残しておくよう強制される。そうやって、両親が亡命しないようにするのだ。

リュ氏は「わたしは、北朝鮮がそのような封建主義的な家族に対する集団の処罰を21世紀に行っていることにぞっとする」と述べた。

リュ氏が今懸念しているのはまだ北朝鮮にいる3人のきょうだいと83歳になる母親だ。「家族には長生きしてほしい。わたしのしたことのために家族が罰を受けると考えると、ただ心が痛む」と語った。

リュ氏はまた、平壌に住んでいる、妻の高齢の両親について心配している。

リュ氏と妻はいずれも北朝鮮のエリート層の出身だ。リュ氏の義父は、金一族の秘密資金を管理する朝鮮労働党「39号室」を運営していた。39号室は、名目上は経済的に困窮している北朝鮮のために外貨を獲得する役目を担っていた。

北朝鮮は長い間、金一族のための資金集めに大使館を利用しているとして非難されている。リュ氏によれば、自身は政治に対処する訓練を受けた外交官だが、外交官のポストに配属された「経済的な商取引を行う作業者」もいた。そうした人々には北朝鮮のために獲得しなければならない金額が割り当てられたという。

駐クウェート大使代理時代のリュ氏。他の人々の顔には報復の恐れがあるためCNNがぼかしを入れている/Courtesy Ryu Hyeon-woo
駐クウェート大使代理時代のリュ氏。他の人々の顔には報復の恐れがあるためCNNがぼかしを入れている/Courtesy Ryu Hyeon-woo

クウェートは特に北朝鮮の収入源としては重要で、国内に北朝鮮の労働者約1万人を雇用している。こうした労働者は現代の奴隷のように扱われているとみられており、専門家によれば、彼らの収入のほぼすべてが北朝鮮政府に吸い上げられ、核開発などの優先課題のために使われる。

リュ氏によれば、少なくとも2017年までは北朝鮮労働者による現金収入でクウェートやカタール、アラブ首長国連邦(UAE)の湾岸諸国を上回っていたのは中国とロシアだけだった。同年国連は北朝鮮によるたび重なるミサイルと核の実験を受けて、各国に対して北朝鮮労働者の雇用を禁止する措置を出した。

リュ氏は「国連の制裁のために湾岸諸国にいた労働者の大部分がそこを離れた」と述べた。

リュ氏はまた、2010年から13年にかけてシリアに派遣された。シリアは北朝鮮にとって友好国のひとつ。リュ氏はシリアの政治家との関係づくりを監督していたが、北朝鮮はアサド政権に通常兵器を販売していた。売却された兵器の中には、長距離の多連装ミサイル発射装置や対空砲火システムが含まれる。しかし、リュ氏によれば、シリアの内戦が激化し、北朝鮮政府は人員をシリアから引き揚げざるを得なくなった。シリアを離れて以降はいかなる新たな兵器取引についても耳にしていないという。

中東での経験によって、米国がオバマ政権時代にどのようにイランの核開発に対応したのかが詳細に分かった。リュ氏はそうした米国の経験が現在のバイデン米大統領にとって役立つと考えている。

「イランの核問題を解決した経験に基づき、バイデン氏が北朝鮮の核問題に賢く対処できるようになるのは間違いないだろう」(リュ氏)

リュ氏によれば、北朝鮮は核兵器の削減については交渉もいとわない可能性があるが、完全に放棄することはありそうにない。しかし、リュ氏は、2018年に北朝鮮の金正恩氏と米国のトランプ大統領がシンガポールで行った歴史的な首脳会談について、経済制裁が北朝鮮に対して交渉のテーブルにつくことを促した要素だった可能性があるとみている。

北朝鮮の労働党大会を記念する軍事パレード。潜水艦発射型とみられる弾道ミサイルが写っている/KCNA/KNS/AFP/Getty Images
北朝鮮の労働党大会を記念する軍事パレード。潜水艦発射型とみられる弾道ミサイルが写っている/KCNA/KNS/AFP/Getty Images

多くの専門家は、北朝鮮がすでに核兵器を開発し、米国まで到達する長距離ミサイルの試射にも成功したことから、金正恩氏が交渉のテーブルについたと考えている。

リュ氏は「現在の北朝鮮に対する制裁は前例のないもので強力だ。北朝鮮に対する制裁は継続すべきだと思う」と述べた。

リュ氏はまた、人権問題も放棄しないことが重要だと述べた。トランプ政権の核協議では人権問題はうやむやにされていた。

北朝鮮政府は自国を社会主義者にとっての楽園だと主張しており、人権侵害の申し立てについて否定している。しかし、北朝鮮は言論の自由や集会の自由を認めておらず、一般市民は国を離れることができない。金政権は、矯正労働収容所や政治犯の収容所を制度的に運用しているとして批判を受けている。これらの施設には12万人を超える男性や女性、子どもが収容されている。

リュ氏は「人権は倫理の問題であり、北朝鮮の体制では人権問題は扱いが難しく、深刻な問題だ」と述べた。

リュ氏は過去1年4カ月を振り返り、唯一残念な点として、平壌に残してきた家族に何かが起こるかもしれないことをあげた。リュ氏と妻は、娘を連れて北朝鮮を離れたことは、娘にとって正しいことだったと信じている。

リュ氏はCNNの取材に対し、新しい家で最も気に入っているところは何かと娘に尋ねたと語った。好きなだけインターネットを使えることだと返事があったという。

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