OPINION

起訴されたトランプ氏に裁判所はどう対処するか

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起訴されたトランプ氏はあらゆる手段を駆使して訴訟での優位性確保を図るとみられる/Jabin Botsford/The Washington Post/Getty Images

起訴されたトランプ氏はあらゆる手段を駆使して訴訟での優位性確保を図るとみられる/Jabin Botsford/The Washington Post/Getty Images

(CNN) ついに起きた。数多くの捜査が5年以上にわたって行われた後で、米国のドナルド・トランプ前大統領がニューヨーク州マンハッタン地区の大陪審によって起訴された。事情に詳しい情報筋が明らかにした。トランプ氏も反撃し、起訴は「政治的迫害」であり、「このような魔女狩り」は裏目に出ると警鐘を鳴らした。

ジェニファー・ロジャース氏/Courtesy Jennifer Rodgers
ジェニファー・ロジャース氏/Courtesy Jennifer Rodgers

起訴内容の詳細についてはまだ分からないが、マンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事がかねてトランプ氏を捜査していたことは周知の事実だ。捜査はトランプ氏が2016年の大統領選時、ポルノ女優ストーミー・ダニエルズさんに口止め料を支払う計画や隠蔽(いんぺい)に関与したとの疑惑とつながる。

今回の事態は単にトランプ氏が初めて刑事責任を問われただけでなく、大統領経験者が起訴される初のケースだ。従って、我々は未知の領域に足を踏み入れていることになる。

ここではっきりさせるべきなのは何人も法を超えた存在ではないということであり、トランプ氏も自らの行いに対する責任を、他のどの市民もそうするように負う必要があるということだ。今回の起訴はそうした説明責任に向けた第一歩に他ならないが、道のりは長く、険しいものになるだろう。

1つの入り口として、次の問いが浮かぶ。果たしてこの起訴は、トランプ氏が出馬を表明している24年の大統領選に何らかの影響を及ぼすのだろうか。法律上、答えはノーだ。

トランプ氏は刑事被告人となっても、引き続き大統領選候補者のままでいられる。たとえ裁判の結果、選挙前に有罪になったとしても同様だ。なぜなら合衆国憲法が規定する大統領選候補者の資格要件には、犯罪歴や係争中の訴えについての内容が一切含まれていない。3月に開催された保守派の大規模イベント「保守政治活動会議(CPAC)」で、トランプ氏もその点を確認。たとえ連邦政府や州の当局から再出馬を目指す中で訴追されたとしても、選挙戦にとどまる意向を表明していた。

当然、容疑をかけられながら選挙活動を行うのは、政治的並びに組織運営上、控えめに言っても困難だろう。訴訟日程の延期を求めて遊説や討論といった選挙関連イベントのための便宜を図ろうとしても、そうしたあらゆる要望は担当判事が聞き取った上で判断することになる。訴訟日程を掌握する判事だが、こうした目的のために実質的な延期を認めるとは考えにくい。

さらにもしトランプ氏が選挙前(あるいは選挙に勝利後も大統領に就任する前)に有罪となり、禁錮刑を宣告されるとすれば、大統領としての職務を果たせないとの理由から同氏を降ろす動きが始まるかもしれない。それでも当面トランプ氏は、自らそれを選択するのであれば、引き続き大統領選候補者のままでいられる。

同氏が起訴されるに至った今、向こう数カ月でどのような事態が予想されるだろうか?

第一段階はトランプ氏が正式に逮捕され、法廷に召喚されて起訴に対する罪状認否を行うことだ。そこでの審理の間、裁判所は保釈の他、必要であれば予備審問の日時の設定といった問題に対処する。検察が裁判に進めるだけの証拠を集めているのかどうかの判断がそこで下される。

筆者はトランプ氏の弁護士らが、マンハッタンでの自発的な出頭に同意するだろうとみている。当局がフロリダ州の法執行機関を通じ、逮捕の手配に踏み切る事態にはならないと予想する。その上でトランプ氏は、釈放されて裁判を待つことになるだろう。しかし、検察側とトランプ氏の弁護士らが合意するのはこの点までとなる公算が大きい。

本人が再三誇示しているように、トランプ氏は法律制度を駆使して結果を遅らせる、場合によっては避ける術を熟知している。マンハッタンでの起訴がトランプ氏にとってこれまで直面した中で最も危険極まりない状況の一つであることを考えれば、我々は同氏が強気の姿勢でこれらの訴状に立ち向かうことを予期しておくべきだろう。

トランプ氏とその弁護士らにとって初期段階での決定的なポイントは、彼らが予備審問を求めるのかどうかだ。予備審問では検察に対し、証拠を提示して起訴に相当する理由を確立することが義務付けられる。つまり検察は、犯罪が行われたと信じるに足る合理的な根拠を示す必要がある。

一方においてそのような審理が開かれれば、検察は証拠の一部を公開せざるを得なくなる。それはトランプ氏のチームにとって訴訟の検証に役立つほか、どのように弁護を行うかについての計画を立てるのにも寄与する可能性がある。他方、そうした事前の盗み見がもたらす恩恵は限定的でもある。というのも検察が提示しなくてはならない証拠とは、比較的低い法律上の基準さえ満たせばそれで十分というものでしかないからだ。この場合、検察が集めた非公開の証拠の大半は明らかにならない公算が大きいと言える。

それよりもトランプ氏が好む可能性があるのは、攻撃的な姿勢を前面に打ち出した取り組みで戦略的優位性を獲得し、訴訟の流れを決定づけることだろう。例えば訴訟手続きが進む中で議論や実質的な弁護を長々と行い、公判を先延ばしにするかもしれない。

いくつかの主張は陪審員団にとっての事実問題であり、裁判で解決することが可能なため公判前の手続きを経る必要はない。最近トランプ氏の弁護士が示唆した主張はこれに該当する。それは当時大統領選の候補者だったトランプ氏がダニエルズさんに口止め料を支払ったのは選挙戦の利益のためではなく、個人的に恥ずかしい思いをするのを避けようとしたといった内容だ。

しかし一部の問題については、司法を通じて精査する必要が生じるかもしれない。具体的にはトランプ氏が主張するとみられる検察の職権乱用や選択的な起訴、同氏が依拠する可能性のある弁護士の助言などだ。また裁判を巡る検察の見解に対し、本人が法的な異議申し立てを行う公算も大きい。

我が国の法律制度は判例により統括されており、被告人にも訴訟を起こし、多くの問題について申し立てを行う機会が豊富にある。トランプ氏が今後そうした措置を進めることは確実だろう。とりわけ考えられるのは前大統領としての自らの地位を頼りに、裁判に関わるニューヨーク州の判事らに対して、これから考慮する問題は過去に裁判所で解決されていないものだと主張することだ。つまるところ、こうしたことの全てを受け、裁判所はこれらの主張への検討と判断により多くの時間をかけざるを得なくなるだろう。

トランプ氏が用いる焦土戦さながらの手法には、別の法的な異議申し立てが絡んでくる可能性が大いにある。それが実際に起きたのは、司法省が同氏の邸宅「マール・ア・ラーゴ」に対する捜索を実施した時だ。機密文書のために行われた昨年の捜索を受け、トランプ氏は特別補佐官(スペシャル・マスター)に対し、あらゆる押収文書の検証を求めた。

そうした動きは最終的に失敗したものの、捜査を数カ月にわたり遅らせた。その間特別補佐官は、全く必要のない文書の検証を実施。後に控訴裁判所が、アイリーン・キャノン判事の下した法律的に問題のある判断を撤回した。

同じく織り込まれることになるのは、トランプ氏の訴訟慣れと、あらゆることに対して可能な限り不服を申し立てる習慣だ。手続きを遅らせる、もし可能なら頓挫(とんざ)させるため、こうした措置がとられる。たとえば最終的にあきらめたものの、同氏は自身の会計会社に対し、財務記録をマンハッタン地区検事長に提出しないよう働きかけていた。これは別の犯罪捜査の中で起きたことだが、同氏が最高裁まで上訴した結果、捜査員らは1年半を失った。

もしトランプ氏の遅延戦術が成功して裁判が25年までもつれ込み、その間24年の大統領選を制することもできたとしたら、同氏は自身への訴訟を取り下げなくてはならないと主張するだろう。理由は違憲だからで、これは司法省の00年の指針に基づく。そこには大統領について、任期中は起訴されず、裁判にもかけられないとの規定がある。

こうした要因を全てまとめると、出来上がるのは相当に長引き、法律上も困難な訴訟ということになる。これらの訴追について、最終的にトランプ氏を裁くに至らないと言い切るつもりはない。ただ結果責任の追及が見込めるにしても、そうすぐに、すんなりと実現はしないだろう。

ジェニファー・ロジャース氏は元連邦検事でCNNの法律アナリスト。ニューヨーク大学のロー・スクールで非常勤教授を、コロンビア大学のロー・スクールで講師を、それぞれ務める。記事の内容は同氏個人の見解です。

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