OPINION

海外で高まる米国のリーダーシップ、国内状況との差異に覚える胸騒ぎ

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北大西洋条約機構(NATO)加盟を申請したフィンランド、スウェーデンの首脳らと歩くバイデン米大統領(中央)/Andrew Harnik/AP

北大西洋条約機構(NATO)加盟を申請したフィンランド、スウェーデンの首脳らと歩くバイデン米大統領(中央)/Andrew Harnik/AP

(CNN) 米国は見事な仕事ぶりで、ロシアによる残虐なウクライナ侵攻に立ち向かっている。ロシアを主導するプーチン大統領の誤算とウクライナの勇敢さ、そして米国が効果的に発揮する世界に向けたリーダーシップとが相まって、今や地政学の風景は塗り替わりつつある。そこでは民主主義が好まれ、強固となった北大西洋条約機構(NATO)には新たな加盟国が加わろうとしている。そして米国は、世界の民主主義国を主導する地位へと返り咲く。

ところが米国内の状況に目を向けると、話は変わってくる。

白人の男が先ごろ、320キロ以上ともいわれる距離を運転してニューヨーク州バファローの食料品店に現れた。目的は黒人の米国人を殺害することだった。ソーシャルメディアの投稿によると、容疑者は襲撃の数カ月前から犯行を計画していたとみられる。13人に発砲し、10人を殺害。犯行の動機には人種差別的かつ反ユダヤ的な「置き換え理論」があったと考えられる。この理論はごく普通の、数世紀にわたって続く移民と民族的多様性のパターンを武器に、特定の思想の固定化を図る。具体的には、白人がゆっくりとかつ意図的にマイノリティーに取って代わられているという内容だ。

人種差別や反ユダヤ主義、反移民感情自体は目新しいものではない。新しいのは多様性と移民の土地である米国において、かつては非主流派だった理論に同調する声が2大政党のひとつから上がってきたという点だ。

共和党がたどる危険な道筋を裏付けるかのように、先週行われた複数の週での予備選には明確なパターンが現れた。共和党は着実に自分たちのより合理的な思想やリーダーから離れ、過激主義を取り入れるようになっているが、同党の有権者らが圧倒的に支持したのは、「大いなる嘘(うそ)」を熱烈に擁護する候補者たちだった。彼らは2020年の大統領選の正当な結果を拒絶している。

例えばペンシルベニア州で、有権者らはダグ・マストリアーノ氏を支持した。極右の大統領選否認論者である同氏は、今や共和党指名の州知事候補だ。ノースカロライナ州では、テッド・バッド下院議員が共和党の上院予備選を制した。同氏は大統領選で使われた投票集計機のメーカー、ドミニオン・ボーティング・システムズに関する根拠のない主張を、トランプ前大統領の首席補佐官を務めたマーク・メドウズ氏と大統領選後にテキスト上で共有していた。

国の二極化は深刻だ。しかし問題は政治的な見解の相違にとどまらない。それ以外の部分で、はるかに危険な事態も起きている。

当然、民主党にも多くの人が過激とみなす見解を支持する人物はいる。また共和党にも、現実に基づいた保守派がいる。しかし共和党全体を見たとき、非主流派がますます主流を占めるようになっている。

有権者らが現在歩調を合わせているのは、置き換え理論を宣伝するエリス・ステファニク下院党会議議長や、極右のFOXニュース司会者、タッカー・カールソン氏といった人物だ。後者は置き換え陰謀論にまつわる言及、引用を非常に多くの場面で行ってきた。明らかに白人の恐怖心をかき立てる取り組みの一環だ(バファローでの銃撃の翌日、ステファニク氏の上級顧問は、同氏が何らかの人種差別的立場を擁護しているとの見方を否定。米紙ワシントン・ポストに対し、「あらゆる含みを持たせて、バファローでの憎むべき銃撃の責めを同氏に負わせようとする次元の低さにはうんざりする。左派及び彼らと同調するトランプ全否定派、提灯(ちょうちん)記事を垂れ流すメディアにそれが当てはまる」と述べた。一方のカールソン氏は、銃撃の容疑者が書いたとされる文書から自身を遠ざけようとしていた)

さらに共和党がますます受け入れつつあるのが、20年の大統領選で不正があったとする反民主主義的な虚言だ。この嘘は党で最も影響力を持つ前大統領のトランプ氏が強く主張している。こうしたことは全て、国内に武器があふれかえっている状況で起きてもいる。

つまりカルト的な権威主義と過激主義的イデオロギー、簡単に銃器が手に入る環境、平気で不都合な真実を否定する態度とが混ざり合った危険な状態だ。

皮肉なことに、米国内で民主主義に対する脅威が高まるこの瞬間、同国は外交政策で並外れた、歴史的な功績をあげている。それは何よりも、世界中における民主主義の強化に資するものとなっている。

先週、フィンランドとスウェーデンはNATOの加盟申請書を提出した。両国は数十年にわたり、大国間の対立に際しては中立の維持を目指してきた。

これがいかに劇的な転換か、推し量るのは難しい。つい最近まで、NATOはその存続自体が疑われるような状況だった。フランスのマクロン大統領は19年、「NATOの脳死」について警告。トランプ氏も無意味な同盟だとこき下ろし、米国による相互防衛への貢献に疑問を投げかけていた。

さらにジョン・ボルトン前米大統領補佐官(国家安全保障担当)によれば、仮に2期目の当選を果たしていたならトランプ氏は米国をNATOから脱退させた可能性もあったという(トランプ氏の広報担当者のテイラー・バドウィック氏はボルトン氏の批判を一蹴し、前大統領補佐官は「米国が戦争してさえいれば満足なのだ」と語っている)。

しかしフィンランドとスウェーデンは、プーチン氏がウクライナ侵攻を命じてから他の全ての国々と同じものを見ていた。侵攻に呼応して米国はロシアに向け、NATOの領土に入れば「米国が有する全軍事力」と対峙(たいじ)することになると警告。民主主義国の同盟であるNATOの一員になれば、攻撃的で帝国主義的意図を持った国から守られるということが明白になった。

内部でいくつか見解の不一致はあるものの、現在のNATOは見たところ、これまでの数十年と比較してより強く、より結束した、より必要な同盟となっている。

これとは異なる方向に進んでいた可能性もあったことは容易に理解できる。別の米大統領、つまり前任者であればここには加わらず、NATOを無力化していたかもしれない。

米政府による外交、政治、財政、軍事面での支援がなければ、ウクライナは今ごろはるかにひどい状態に陥っていた可能性がある。プーチン氏はかつてないほど勢いづき、その目をエストニア、ラトビア、リトアニアに向けていただろう。他にどの国が標的になるのかは全く予想もつかない。中国はロシア政府との関係を喜び、台湾侵攻への準備を急ピッチで進めていただろう。世界の他の指導者らも、国内での地位強化を念頭に歴史を見返し、失った領土を取り戻しにかかっていたかもしれない。

しかし米国は同盟国を主導し、態度を明確にした。プーチン氏が侵攻する前から、ウクライナの主権と領土の保全を認めていた。

最初のロシア軍の戦車が国境を越えてウクライナに侵入する以前の段階で、バイデン大統領は極めて困難な道を進もうとしていた。目的はプーチン氏のウクライナ征服を阻止することだが、それを果たすうえで2大核保有国である米ロの直接衝突を引き起こすわけにはいかない。またロシアの地政学的な勝利も許してはならない。最高レベルの難題ながら、これまでのところバイデン氏はうまくやっているように見える。

バイデン氏と同氏のチームは、世界をウクライナの側に結集させた。NATOが結束してウクライナ政府を支援することを確認し、大量の武器を供与。そうした助けを得て、ウクライナ軍の守備隊はロシア側を押し戻している。こうした情勢の展開は、プーチン氏、バイデン氏、そしてウクライナのゼレンスキー大統領の3人によるところが最も大きい。

現時点で、ロシアは張り子の虎のように思える。たとえ凄まじい破壊力があろうとも、中国は間違いなくロシアとの「無制限の」友情について、熱意を失いつつあるはずだ。

そして米国は、誰もが認めるリーダーの地位を取り戻し、民主主義国による強力な同盟を主導している。

とはいえ、世界が米国内の状況を見つめるなら、そこで目にするのは暴力と憎悪、分断によって引き裂かれ、苦しむ民主主義国の姿に他ならない。

現状は米国の世界的なリーダーシップにとってひとつのハイライトではあるものの、それはあくまでも片方の目を閉じて米国を見たときの話だ。

トランプ前政権時代の国防長官の1人、マーク・エスパー氏は最近、米国にとっての最大の脅威は中国ではなく、極端な党派心がもたらす政府内の機能不全だと指摘した。同氏は現在、共和党に対してトランプ氏との「絶縁」を呼び掛けているが、トランピズム(トランプ主義)はすでに共和党のほとんどを制圧してしまった。

これは、中間選挙に向けて動いている上下両院とホワイトハウスだけの問題ではない。民主主義それ自体に関わる問題だ。もし選挙結果を拒絶し、マイノリティーを悪者にし、国内の分断をあおる候補者が22年と24年の選挙で台頭すれば、米国の民主主義は生き残れなくなる可能性が極めて高い。そうなると当然ながら、自由の世界的指標としての米国、世界の民主主義国のリーダーたる米国の地位も、ともに消滅してしまうだろう。

フリーダ・ギティス氏は世界情勢を扱うコラムニストでCNNのほか、米紙ワシントン・ポストやワールド・ポリティクス・レビューにも寄稿している。記事の内容は同氏個人の見解です。

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