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米海軍の太平洋「最恐」兵器?、巡航ミサイル原潜オハイオ

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巡航ミサイル潜水艦「オハイオ」が米海兵隊の戦闘強襲偵察用舟艇と統合訓練を行う様子=2月、沖縄沖/ Sgt. Audrey M. C. Rampton/USMC

巡航ミサイル潜水艦「オハイオ」が米海兵隊の戦闘強襲偵察用舟艇と統合訓練を行う様子=2月、沖縄沖/ Sgt. Audrey M. C. Rampton/USMC

香港(CNN) 米海軍がこれまで就役させた中で最大の潜水艦「オハイオ」。冷戦期に生まれた同艦は、1回の集中攻撃で十数都市を破壊する火力を備えて実戦投入されたものの、近年は核ミサイルを外して運用されている。

だが、オハイオが太平洋で活動する「最恐」かつ最も万能な米軍の兵器プラットフォームであることに変わりはないかもしれない。

バイデン米政権は現在、同盟国や「自由で開かれたインド太平洋」の防衛を重視する姿勢を示しており、海軍兵器でその姿勢を鮮明にしている。

1月下旬から2月上旬の2週間を振り返ると、米政権は誘導ミサイル駆逐艦に台湾海峡を通過させることで、台湾防衛への変わらぬ決意を表明。同駆逐艦は続けて、南シナ海における中国の領有権主張に対抗するため西沙(パラセル)諸島に向かった。米国はまた、南シナ海での演習に巨大空母を派遣したほか、最新鋭駆逐艦のひとつを日本に派遣した。

そして先々週には、東アジア地域でオハイオの姿を公開し、排水量1万8000トンの巡航ミサイル潜水艦が沖縄周辺で米海兵隊と共同訓練を行う様子を見せつけた。

英ロンドンの王立防衛安全保障研究所に所属する海軍の専門家、シドハース・カウシャル氏はオハイオや姉妹艦の「ミシガン」、「フロリダ」、「ジョージア」について、ミサイルと兵士を同時に敵の領域近くまで運べる万能艦だと指摘する。

この点は中国のような敵国と比較する場合に重要だろう。中国は強力な対艦ミサイル能力を保有するが、対潜防衛力はまだ更新と強化の途上にある。

米領グアムのアプラ港でのオハイオの様子=2021年/PO2 Kelsey J. Hockenberger/US Navy
米領グアムのアプラ港でのオハイオの様子=2021年/PO2 Kelsey J. Hockenberger/US Navy

「多くの火力を迅速に運搬」

オハイオ潜水艦は今はもう核ミサイルを搭載していないが、米海軍のすべての潜水艦と同様、原子力を動力とする。現在の呼称は「巡航ミサイル搭載原子力潜水艦(SSGN)」で、原子炉によってタービン2基に蒸気を送り、その力でプロペラを回すことで推進する。

海軍によると、その航続距離は「無制限」。連続潜航能力の唯一の制約となるのは、乗組員の食料を補給する必要性のみだ。

オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できる。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近い。

トマホーク1基では、爆発力の高い弾頭を最大1000ポンド(約450キロ)搭載可能だ。

トマホークミサイルが2018年の試験で米海軍の潜水艦から発射される様子。オハイオ級巡航ミサイル潜水艦はトマホーク154基を搭載できる/US Navy
トマホークミサイルが2018年の試験で米海軍の潜水艦から発射される様子。オハイオ級巡航ミサイル潜水艦はトマホーク154基を搭載できる/US Navy

米海軍の元大佐で、米太平洋軍統合情報センターの作戦責任者を務めたこともあるカール・シュスター氏は「SSGNなら多くの火力を迅速に運搬できる」と指摘する。

「154基のトマホークは甚大な打撃を正確に与えることができる。いかなる米国の敵もその脅威を無視できない」(シュスター氏)

その火力の威力が披露されたのは2011年3月、潜水艦フロリダが「オデッセイの夜明け作戦」で100発近いトマホークをリビア国内の目標に発射した時のことだ。SSGNが戦闘で使用されたのは初めてだった。

ただ、リビアは中国とは異なる。中国人民解放軍海軍(PLAN)はリビアにはない対潜戦兵器を数多く持ち、その能力を向上させつつある。

中国は近年、対潜哨戒機やフリゲート艦、攻撃型潜水艦といった増大する海軍戦力に大量のリソースを投入してきた。いずれも敵の潜水艦を撃沈するのが目的だ。

こうした戦力拡充にもかかわらず、冷戦時代に潜水艦大国でなかった中国は依然として遅れを取り戻す段階にある。しかも、対潜戦では数に加えて経験も必要となる。

もしオハイオが太平洋のただ中に展開している場合、中国の対潜部隊はより陸地に近い場所で活動するように設計されたため、探知はいっそう難しくなるという。

ただし陸地に近い場所であっても、オハイオはステルス能力ゆえの優位性を持つと、アナリストらは指摘する。米艦隊の他の攻撃型潜水艦に比べて静粛性が高いことから、陸地に近い海域であっても中国が探知するのは至難の業になりそうだ。

つまりオハイオなら、内陸部の目標により近いところまで対地攻撃ミサイルを運搬できる。

「SSGNはそのステルス能力のおかげで前方展開して、敵防衛領域の奥深くにある目標を攻撃することが可能だ」(カウシャル氏)

オハイオを担当する海軍要員が船の上部を歩く様子=グアム島アプラ港/PO2 Kelsey J. Hockenberger/US Navy
オハイオを担当する海軍要員が船の上部を歩く様子=グアム島アプラ港/PO2 Kelsey J. Hockenberger/US Navy

新たな脅威に適応する

オハイオはこれまでに建造された潜水艦の中で屈指の静粛性を誇る。

1970年代に構想され、大陸間弾道ミサイル「トライデント」を搭載する初の核ミサイル潜水艦として就役したオハイオは、一時は戦略抑止の代名詞だった。

オハイオ級18隻はいずれも24基のトライデントを装備し、各トライデントにはそれぞれ独立した目標を設定した核弾頭が最大8発搭載されていた。理論上、1隻の潜水艦による1回の発射で旧ソ連の複数の都市を消滅させることも可能だった。

これらの潜水艦は一度に数カ月連続で潜航するように設計されており、ソ連が核ミサイルで米国の領土を攻撃した場合に浮上して、壊滅的な反撃を加えることを任務としていた。

海中では深くまで潜航して静かに待機することで、ソ連の監視を困難にした。これにより抑止力としての価値を保っていたと言える。

しかし、冷戦終結で米ロ間の緊張が和らぐと、これほど多くの弾道ミサイル潜水艦を保有する必要性は薄れた。オハイオ、ミシガン、フロリダ、ジョージアの4隻はいったん退役が決まったものの、海軍はその後、4隻のステルス能力をテロ対策支援に振り向けることができると判断した。

これはつまり、特殊部隊を収容するスペースをつくることを意味していた。

SEALなどの海軍特殊部隊員を66人収容できるよう、核ミサイル搭載用のスペースは寝台やバスルームに改装された。

ミサイル発射管は艦に出入りする潜水士のため、注水や排水ができるロックアウトエリアに改造された。小型潜水艇に乗っての出動も可能だ。

また改造後の艦内には指揮統制所として使うスペースや設備があり、海中に潜みつつ、付近の海岸での作戦に指示を出すことができる。

オハイオは4隻のうちで最初に巡航ミサイル潜水艦に改造され、2007年にSSGNとして初の任務に就いた。

その後はワシントン州のキットサップ海軍基地を拠点に活動し、太平洋のグアム島にある潜水艦基地に前方展開されることが多い。

米海兵隊のMV22B「オスプレイ」や小型艇に乗った海兵隊員が、オハイオと共同演習を行う様子=2月、沖縄沖/US Navy
米海兵隊のMV22B「オスプレイ」や小型艇に乗った海兵隊員が、オハイオと共同演習を行う様子=2月、沖縄沖/US Navy

太平洋の緊張

オハイオとその乗組員150人超は先々週、沖縄沖で第3海兵遠征軍の偵察部隊と共同訓練を行った。沖縄を含む島嶼(とうしょ)ラインは「第1列島線」と呼ばれ、中国が太平洋の外海に部隊を展開するために通過しなくてはならない障壁を指す。

米海軍第7艦隊によって提供された写真には、オハイオが小型艦艇やティルトローター機「オスプレイ」に乗った海兵隊員と連携する様子が写っている。

オハイオの艦長を務めるカート・バラグナ大佐は声明で、「海兵隊と訓練するたびに我々の能力は研ぎ澄まされる。地域の課題に柔軟に対応し、戦闘で実証済みの能力を展開して、日々の競争や危機、紛争で勝利することができるようになる」としている。

海兵隊員が統合訓練中、戦闘強襲偵察用舟艇を利用してオハイオに近づく様子=2月、沖縄沖/Cpl. Destiny Dempsey/Digital/US Marines
海兵隊員が統合訓練中、戦闘強襲偵察用舟艇を利用してオハイオに近づく様子=2月、沖縄沖/Cpl. Destiny Dempsey/Digital/US Marines

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