OPINION

米共和党クルーズ議員らが目指すのは民主主義の破壊、保護に非ず

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
米共和党のクルーズ上院議員。複数の州での選挙人投票に異議を唱えると表明している/Andrew Caballero-Reynolds/Pool/AFP/Getty Images

米共和党のクルーズ上院議員。複数の州での選挙人投票に異議を唱えると表明している/Andrew Caballero-Reynolds/Pool/AFP/Getty Images

(CNN) 米共和党のテッド・クルーズ上院議員は、あなたがこう信じるのを望む。自分と11人の共和党上院議員の同志は大統領選の選挙人投票の承認に異議を唱えるつもりでいる。複数の激戦州での集計に反対することで、我が国の「民主的なプロセス」を「保護する」のだと。しかしそれはうそだ。

ディーン・オベイダラー氏
ディーン・オベイダラー氏

事実として、クルーズ氏とその共謀者たちがやろうとしているのは、CNNのジェイク・タッパー氏が3日の番組でいみじくも命名したように「無血クーデター」にほかならない。彼らはドナルド・トランプ氏に力を貸して2020年の選挙結果を覆し、同氏が大統領のままでいられるようにしようと試みる。実際にはジョー・バイデン氏に敗れたにもかかわらず。

この期に及んで、どの州のものであれ選挙人投票に異議を唱えるなど、信義に基づく行動とはとても言えない。新たな委員会を設置し、クルーズ氏のグループが示唆するように選挙結果を「監査」するのも同様だ。トランプ氏とその盟友たちが起こした訴訟はこれまで60件近くに上るが、米紙ニューヨーク・タイムズによると「不正選挙が決定的に証明されたケースはただの一つもない」。違法な投票で対立候補を利する結果が出たと裁判所が認めることはなかった。それどころかこれらの訴訟は、トランプ氏自ら任命した8人の連邦裁判所判事にさえ棄却されている。

一般票の再集計も行われた。ジョージア州は知事が共和党で州議会も共和党が過半数を占めるが、バイデン氏が1万2000票近い差をつけて勝利した。この結果は3回にわたる再集計(うち1回は手作業)で確定した。さらについ先週には、トランプ氏の強い要請を受け、州がコッブ郡における不在者投票の署名の照合を実施した。ここでも不正の証拠は見つからなかった。

バイデン氏の勝利はウィスコンシン州でも確定した。トランプ氏の要求した再集計を受けた結果だ。その他のいわゆる「争点となっている州」(件の上院議員や次期上院議員がそう呼んでいる)には、バイデン氏がトランプ氏に15万4000票以上の差をつけて完勝したミシガン州や、やはりバイデン氏が8万票以上上回ったペンシルベニア州、知事と議会が共和党でありながらバイデン氏が1万1000票近くの差で勝利したアリゾナ州が含まれるのだろう。

それでもクルーズ氏(トランプ氏は2016年の選挙中、この人物を「うそつきテッド」と呼んでいた)をはじめとする主要メンバーは、別の結果を信じてもらいたいと願っている。彼らはうそと半端な事実とを並べ立てた声明を2日に発表し、このような露骨な権力争いを必死で正当化しようとしている。あるいは最低でも、自分たちをトランプ氏の支持基盤に売り込もうとしている。

まず彼らは2020年の大統領選が「前例のない不正投票の疑惑にまみれた」ものだったと主張する。もちろんこうした主張を発しているのは、今回のクーデターから恩恵を得ようとするまさにその人物、トランプ氏にほかならない。

いずれにせよ、選挙の不正にまつわる疑惑を決定するのは裁判所であって、特定の政党に属する当事者たちではない。弁護士でありテキサス州の訴訟長官も務めたクルーズ氏は、少なくともそれが分かっていなくてはならないグループの1人だ。そして同氏が間違いなく知っているように、あらゆるトランプ氏の訴訟は失敗に終わっている。

それでも異議を唱える人たちは、誤解を招く言い回しでトランプ氏にはまだ裁判所での運が向いてきていないとの見方を示唆する。上記の声明には「理想を言えば、裁判所には証言に耳を傾け、深刻な選挙不正に関するこれらの主張に決議を下してもらいたかった。2度にわたって連邦最高裁にはそうする機会があったが、2度とも拒否してしまった」とある。

実際のところ裁判所は、トランプ氏とその盟友らによる申し立ての価値を検討していた。例えばトランプ氏の弁護士のルディー・ジュリアーニ氏は自ら訴訟を起こし、ペンシルベニア州の裁判所でトランプ氏のために同州での結果を覆そうとした。公判で敗れた後、トランプ氏が任命した控訴裁判所の判事は、同氏の訴えの要点を抜き取り、以下のような見解を記した。「弁護士ではなく有権者が大統領を選ぶ。訴訟事件摘要書ではなく投票用紙が選挙を決める」そのうえで「罪を問うには具体的な申し立てとそれに伴う決定的な証拠が必要」だが、「ここにはどちらもない」と付け加えた。

やはり声明で言及されていないのがアリゾナ州のケースだ。同州の共和党委員長を務めるケリー・ワード氏は、訴訟を起こしてバイデン氏の勝利を覆そうとした。ワード氏は許可を受け、3000票を超える郵便票を書類調査の専門家とともに再点検した。選挙で不正があったとする自身の主張を証明するためだ。

郵便票の署名を確認したところ、上記の専門家さえも不正の証拠がないことを認めた。2日間にわたる公判ではワード氏が召喚した様々な証人が証言を行ったが、判事は次のように結論付けた。ワード氏は「バイデン氏とカマラ・ハリス氏が史上最多の票を獲得しなかったと証明できていない」。ワード氏はその後、州の最高裁に上訴したが、7人の判事(全員が共和党の知事によって任命された)は全員一致でバイデン氏の勝利を認めた。

トランプ氏は裁判での運に恵まれていないだけという考えを打ち砕くケースがまだある。それはウィスコンシン州の訴訟で、トランプ氏が任命した連邦判事が担当した。同判事は判決文で、トランプ氏の要請は「常軌を逸している」と指摘。「現職の大統領が再選を果たせなかったことを理由に連邦裁判所へ助けを求め、一般投票の結果を破棄させようとしている」と記した。そのうえで「本法廷は原告(トランプ氏)に自らの言い分を述べる機会を認めた。そして原告は判決において敗れた」と結論した。

クルーズ氏らの声明は、衝撃的な一文で締めくくられる。「我々の誰もがともに行動し、選挙が憲法の下で合法的に実施されたとの確証を得なくてはならない」。実際には、選挙は合法だった。無数の訴訟と再集計、監査がそれを裏付けている。

しかしトランプ氏やクルーズ氏のような人々にとって事実は意味をなさない。彼らには権力こそすべてであり、どんな犠牲も厭(いと)わないからだ。トランプ氏と共和党の盟友たちにかかれば、民主主義も単なる障害物に過ぎない。それが立ちふさがる道の先に、彼らが熱狂的に欲してやまない権力が存在している。

ディーン・オベイダラー氏は元弁護士で、現在は衛星ラジオ「シリウスXM」の番組司会者やニュースサイト「デイリー・ビースト」のコラムニストを務める。記事の内容は同氏個人の見解です。

「米大統領選2020」のニュース

Video

Photo

注目ニュース

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]