トランプ氏の勝利、鍵を握るのはベトナム系有権者か

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共和党の忠実な支持者とされるベトナム系米国人の動向がトランプ氏再選の行方を左右する可能性も/Mario Tama/Getty Images

共和党の忠実な支持者とされるベトナム系米国人の動向がトランプ氏再選の行方を左右する可能性も/Mario Tama/Getty Images

(CNN) 米大統領選まで100日を切り、各種世論調査で劣勢に立たされているドナルド・トランプ大統領は、再び、さまざまな争いの種をまくことにより国を分断し、このパンデミック(感染症の世界的大流行)の間の自らの無責任なリーダーシップから米国民の目をそらそうとしている。

その一例が在ヒューストン中国総領事館の閉鎖で、中国も対抗措置として四川省成都にある米国総領事館を閉鎖した。トランプ氏の支持層の一端をなすベトナム系米国人は、その多くが反中感情を持っており、彼らにとって米中関係の緊迫化は待ち望んだ展開だったかもしれない。

ベトナム系米国人の中でも特に50歳以上の層は、数十年前から忠実な共和党支持者だ。米国のアジア系移民の権利の保護などを目的とする非政府組織(NGO)「アジア系米国人のための法的防御・教育基金(AALDEF)」によると、ベトナム系米国人はアジア系米国人の中で最も保守的だという。

アジア太平洋諸島系米国人投票集団(APIAVote)の調査によると、ベトナム系米国人の中でも、50歳未満の層は共和党への共感が薄れつつあるが、多くの年配者は依然として共和党候補者、特にドナルド・トランプ氏への支持を堅持しているという。

実際、トランプ政権は過去4年間、貿易や外交、軍事面で中国と何度も衝突してきたが、それが年配のベトナム系米国人たちの「トランプ愛」をさらに強める結果となっている。彼らの多くは中国を共産主義の脅威とみなし、逆にトランプ氏を中国政府の巧みな戦術に立ち向かう強いリーダーと見ている。

ベトナム系米国人たちが米国のどこに多く住んでいるかも重要だ。APIAVoteのデータによると、カリフォルニア州を「故郷」と呼ぶ約78万人のベトナム系米国人(米国に住むベトナム人の約4割を占める)は別として、テキサス州に約30万人、ジョージア州に約6万5000人、フロリダ州に約8万5000人のベトナム人が住んでいる。

テキサス、ジョージア、フロリダの3州は、2020年の大統領選で勝敗の鍵を握る州と考えられており、11月の一般有権者による投票でもベトナム系米国人が重要な役割を果たす可能性がある。

トランプ氏がこれらの州で勝利するためには、年配のベトナム人たちの中にある中国政府に対する恨みや民主党への不信感をうまく引き出す必要がある。

そこでまず、多くのベトナム系米国人が中国に対して、歴史的、イデオロギー的にどのような感情を抱いているのかを明らかにすることが重要だ。特に年配のベトナム人たちは、歴史上の敵である中国に対し、当然ながら特別な感情を抱いている。

越中両国の間に積もった怒りや不満を象徴する出来事がチュン姉妹の反乱だ。1世紀初頭、当時ベトナム北部を支配していた中国の後漢王朝の太守に対し、同地方の豪族の娘だったチュン姉妹が反乱を起こした。反乱は成功し、姉妹はその後3年間、ベトナムの複数の地域を統治した。しかし、後漢の初代皇帝である光武帝は失われた領土を取り戻すべく、圧倒的な数の軍を派遣し、チュン姉妹の統治は終焉(しゅうえん)を迎える。ベトナムの言い伝えによると、漢軍に追い詰められたチュン姉妹は川に身を投げたとされる。

第2に、40年以上前のベトナム戦争で(同じ共産主義の中国の支援を受けた)北ベトナムに母国を奪われ、耐え難い心の痛みを抱えながら米国に渡った南ベトナムの難民の多くは、1973~75年の極めて重要な時期に、民主党議会が南ベトナムに対して行った裏切り行為を決して忘れていない。

68年初頭のテト攻勢では、北ベトナムの支援を受けた南ベトナム解放民族戦線の軍事的敗北は明らかだった。しかし、南ベトナムの奥深くまで侵攻するというこの大胆な攻撃は、北ベトナムと南ベトナム解放民族戦線にとって重要な心理的勝利の役割を果たした。

72年の大統領選挙期間中に米国内で非常に大きな政治的圧力にさらされたニクソン政権は、73年初頭、同盟関係にあった南ベトナムに、北ベトナムとのパリ和平協定への署名を基本的には強制してベトナムにおける米国の直接的な軍事活動を正式に打ち切った。

米軍撤退後、北ベトナムは停戦協定を無視して南ベトナムへの攻撃を続けたが、当時、米国は石油危機のさなかにあり、さらにウォーターゲート事件でニクソン大統領は辞任に追い込まれる中、(民主党が多数を占める)連邦議会は、南ベトナム政府への軍事、財政支援の削減を再開した。防衛軍への物資の再供給が不可能になった南ベトナム政府の士気は低下し、南ベトナムは75年4月30日に降伏した。

年配のベトナム系米国人の多くは、数十年前の敗北の痛みを忘れていないため、トランプ氏を支持し続け、さらにトランプ氏が慎重に演出した資本主義対社会主義のイデオロギーの対立に固執している。

そして彼らはトランプ氏に心酔するあまり、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱や北大西洋条約機構(NATO)加盟国との関係悪化など、トランプ政権の戦略的外交政策の失敗にも目をつぶっている。

11月の大統領選が刻一刻と迫るにつれ、米国民は、トランプ氏が年配のベトナム系米国人の有権者を集める上でいかに説得力を持っているか(また、若いベトナム系米国人にとってもトランプ氏は魅力的な候補者であるか)を知ることになるだろう。

恐らく、年配のベトナム系米国人は、トランプ氏の大半の支持者と同様に、今後もトランプ氏に忠実であり続けるだろう。彼らは70年代に「自由の地」の発見に成功したが、今もなお母国の歴史の呪縛にとらわれているのだ。

本記事はベトナム系米国人で、ディカーブ郡有権者登録・選挙委員会の副議長バオキー・ブー氏によるものです。記事における意見や見解はすべて同氏個人のものです。

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