開発進む超音速機、再び空を飛ぶのはいつ?

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超音速旅行の復活を目指す取り組みでは、ブームとアエリオンの2社によるプロジェクトが主導的な役割を果たしている。写真はブームの超音速機「オーバーチュア」/Courtesy Boom
写真特集:白熱する開発競争、再び超音速機の時代は来るのか

超音速旅行の復活を目指す取り組みでは、ブームとアエリオンの2社によるプロジェクトが主導的な役割を果たしている。写真はブームの超音速機「オーバーチュア」/Courtesy Boom

(CNN) 超音速飛行の新たな時代の幕開けが迫っているようだが、音速を超えるスピードで飛ぶには克服すべき課題が3つある。航空の世界の「3つのE」、すなわち「engineering(工学)」「environment(環境)」「economics(経済性)」だ。

約16年前のフライトを最後に退役した超音速旅客機「コンコルド」は、3つの課題のうち工学を克服しただけに過ぎない。

コンコルドは他の商用機の半分以下の時間で大西洋を横断できたが、環境面や運用コストの課題は払しょくできなかった。

二酸化炭素排出や地球環境に注目が集まる今、超音速商用機が復活したとして本当に維持可能なのだろか。航空会社やメーカーに利益をもたらし、乗客に手ごろな価格を提供できるのだろうか。

米国には成功を確信する企業が2つあり、2020年代半ばまでに超音速機を市場投入する計画に全力を注いでいる。ニューヨーク―ロンドン間をわずか3時間15分で結ぶ案もある。

両社はそれぞれ航空会社とビジネスジェット市場に狙いを定め、環境面で超音速飛行の大きな妨げとなるソニックブーム(衝撃音)に関し、異なる解決策を打ち出している。

「世界は待てない」

「コンコルドは優れた機体で壮大な実験だったが、排出量や騒音が余りに大きく、運用コストも高すぎた」「我々の取り組みはそれとは大きく異なる」。こう語るのは米アエリオンの会長と社長、最高経営責任者(CEO)を兼任するトム・バイス氏だ。

アエリオンはネバダ州リノの本社で8~12人乗りの超音速ジェット機「AS2」の開発を進めている。

AS2の速度はマッハ1.4。ニューヨークから南アフリカのケープタウンまでの移動を3時間半、JFK国際空港とシンガポールや豪シドニーを結ぶ路線なら4時間以上を短縮できるとの触れ込みだ。

アエリオンはすでに最初の顧客となるフレックスジェットから20機を受注した。初飛行は2024年となる予定で、26年の市場投入を目指している。

価格は1億2000万ドル(約130億円)と高額だが、時間の節約になることから、買い手は出費を惜しまないはずだと同社はみている。

だが、アエリオンの野心は環境に優しい航空機の開発にも向けられている。「世界はカーボンニュートラル(二酸化炭素排出量を実質ゼロにすること)の実現を2050年まで待てない」(バイス氏)

「燃料燃焼をできる限り少なく」

アエリオンのAS2はニューヨークからロンドンまで4時間半で飛行できる可能性がある/Courtesy Aerion
アエリオンのAS2はニューヨークからロンドンまで4時間半で飛行できる可能性がある/Courtesy Aerion

アエリオンの提携企業には、ゼネラル・エレクトリック(GE)やスピリット・エアロシステムズなどが名を連ねる。GEは超音速エンジン「アフィニティ」を昨年お披露目。スピリットは与圧胴体を開発中だ。

操縦室の設計に関しては、ハネウェル社が超音速軍用機でのノウハウを生かし、処理装置や表示装置、センサー、飛行制御システムの開発に当たっている。

「燃料燃焼をできる限り抑えた効率的な機体設計にする必要があったため、高度な空力性能や高燃費エンジンの開発に10年を費やした」(バイス氏)

企業は年142時間を節約

さらに騒音の問題もある。バイス氏によると、AS2は離着陸時の騒音に関する最も厳格な規制「航空機騒音基準ステージ5」を満たすよう設計されている。

だがおそらく、AS2の最も革新的な特徴のひとつは、衝撃波を地上に到達させずに陸地上空を超音速飛行できる「ブームレス・クルーズ」だろう。衝撃波は地面に向かう代わりに、大気内に戻っていくことになる。

静粛性の高い超音速飛行の方法としては他にも「ローブーム」と呼ばれる方式があり、コンコルドに比べれば騒音が少ないものの、地上で遠雷に似た音が生じることから、アエリオンでは「ブームレス・クルーズ」の開発に踏み切った。

米ニューヨークでビジネスジェットを利用する企業を分析したところ、代替機としてAS2を利用すれば、年間で142時間の節約につながる見通しであることがわかった。

AS2の客室の完成予想図/Courtesy Aerion
AS2の客室の完成予想図/Courtesy Aerion

時間短縮にどれだけ払うのか

コンコルドの運賃はビジネスクラス席の約4倍に上ったが、コンコルドはビジネスジェットではなかった。

超音速チャーター機で成層圏を高速飛行するために、忙しい企業幹部は一体いくらまで払うだろうか。

プライベートチャーター機の国際予約サービス「プライベート・フライ」のアダム・トウィデルCEO兼創業者は「我々の顧客なら4時間の経路を30分短縮することに料金を払う」と主張する。

「プライベートジェットを利用する顧客は、スピードが2倍になれば料金も2倍払うと思う。もっとも、顧客は超音速機に乗ったという名誉も欲しがるだろう。これこそまさにコンコルドで起きたことだ」(トウィデル氏)

狙いは航空会社

だが、超音速飛行の名誉を得るのはチャーター機市場の高級層だけにとどまらない。

コロラド州デンバーにあるブーム・スーパーソニック社の格納庫では、55~75座席の超音速旅客機「オーバーチュア」の開発が進んでいる。

オーバーチュアの巡航速度はマッハ2.2となる予定で、価格は2億ドルに上る。すでに英ヴァージン・グループから10機、日本航空から20機の計60億ドルの仮受注を受けた。

ブーム・スーパーソニックのブレーク・ショール創業者兼CEOはCNNの取材に、「オーバーチュアは設計段階にあり、主要技術や仕様の開発と洗練を進めている」と明かす。

持続可能な代替燃料を使ったエンジンなど主要部品の多くは既に試験に成功しており、2020年代半ばには試験飛行を開始する予定だという。

オーバーチュアはマッハ2.2の速度が生きる海洋横断ルートを中心に、500路線あまりに投入される予定。ニューヨーク発ロンドン行きやサンフランシスコ発東京行きなどが候補に挙がっている。

1日の出張で大西洋を往復

日本航空はブーム社の「オーバーチュア」20機を仮発注した/Courtesy Boom
日本航空はブーム社の「オーバーチュア」20機を仮発注した/Courtesy Boom

オーバーチュアは陸地上空では亜音速飛行を行う計画で、人口密集地域にソニックブームの影響が及ぶことはなさそうだ。超音速で飛行するのは海上だけとなる。

ブームの試算によると、2020年代半ばには就役開始から10年で1000~2000機の需要が見込まれ、市場規模は2650億ドルに達するという。

ショール氏は「オーバーチュアなら1日で大西洋を往復する出張も可能になる」「想像してほしい。午前中にロンドンに飛び、昼のうちに取引先と商談を行い、子どもを寝かしつける時間には米国に戻れるようになる」と力を込める。

ローンチカスタマーとなる日本航空(JAL)の幹部は現在、ブームと緊密に連携しつつ、機内体験の構築や適切なルートの立案に当たっている。

JAL事業創造戦略部の森田健士グループ長は「調査や顧客のフィードバックのおかげで、時間が新たなぜいたく品になっていることが分かった」「フライト時間の短縮により、たとえばサンフランシスコ―東京間をわずか5時間半で結ぶことで、顧客により多くの柔軟性を提供できるだろう」と指摘する。

就航日と路線については、「まずはブームで生産中の試験機『XB1』の成功を確認しなければならない」「確認でき次第、オーバーチュアの実機の生産に目を向けていく」(森田氏)

「成功が確認できれば、JALの国際線網にとってどのルートが最も実現性が高いか、検討を進める予定だ」

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