OPINION

もはや安泰な職業などないのか?

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技術の進化によって、将来は記者の仕事もAIツールに取って代わられるのか?/Adobe Stock

技術の進化によって、将来は記者の仕事もAIツールに取って代わられるのか?/Adobe Stock

(CNN) 久しく明らかなように、人工知能(AI)はいつの日か多くの人間に取って代わる可能性がある。具体的には顧客サービスや保険の引き受け、製造業といった分野に従事する人々だ。とはいえ、筆者はかねて記者という自身の職業に関しては頓着せずにいた。結局のところ、一体どんなAIツールに人間の頭脳の代わりが務まるというのか?

ピーター・バーゲン氏/CNN
ピーター・バーゲン氏/CNN

ここ数日、筆者はAIチャットボット「チャットGPT」に関する情報を耳にしていた。このツールを使えば、理路整然としたリポートや論説が数秒で書けるという。そこで試しにサインアップし、ある作業を実行してもらうことにした。これまでは少なくとも一定程度の技量が必要だろうと確信してきた作業だ。チャットGPTにこう命令した。「論説をピーター・バーゲン風に書きなさい」

ものの2秒で、このツールは以下の論説を弾き出した。

「国の安全性は増しているものの、テロとの戦争は終わりから程遠い。

就任から100日を経て、バイデン米大統領は国家安全保障におけるいくつかの重要な成果を挙げることができる。米国は劇的な進展によって、自国の最も長期にわたる2つの戦争を段階的に縮小した。アフガニスタンとイラクにおけるそれらの戦争が幕を閉じようとする中、米国はドナルド・トランプ氏が大統領だった4年前よりも安全になっている。

しかし、テロとの戦争は終わりには程遠い。国際テロ組織アルカイダは依然として米国と同盟国にとって脅威であり、過激派組織イラク・シリア・イスラム国(ISIS)も中東、アフリカ、南アジアに危険をもたらし続けている。

バイデン政権はいくつかの措置を講じてこれらの脅威に対処してきた。シリアとイエメンにあるアルカイダ及びISISの標的に対する最初の軍事攻撃を承認し、特殊作戦部隊をシリアに派遣してISISとの戦闘を支援するなどした。

しかし、米国と同盟国をテロの脅威から守るには全く足りない。バイデン政権は自らの取り組みを拡大し、暴力的な過激主義に対抗するべきだ。中東のみならず、米国でも同様に。

米国はまた当該地域の国々との連携を強化した方がいい。ヨルダン、エジプトなどとの連携は、地域の安定と対テロ活動にとって重要だ。これらの国々と協力してそれぞれの対テロ能力を増強することは、長期的な利益になるだろう。

最後に、バイデン政権は協調的な取り組みによって中東で最も強力なイランと再度関係を結んだ方がいい。これは将来の紛争リスク低減に寄与する可能性がある。同時に一段と大掛かりな協力に道を開き、テロやその他の国を越えた脅威に立ち向かうこともできるようになる。

テロとの戦争は終わりには程遠い。それでもバイデン政権は正しい措置を講じ、米国と同盟国をテロリストの脅威から守っている。正しい戦略と正しい提携相手を持てば、米国は引き続きこの世界的な苦難との戦いに邁進(まいしん)できる」

論説は「テロとの戦争」が終わっていないという全体の議論を明確にしつつ、その内容をいくつもの副次的な議論で補強している。それらはバイデン政権が行うべき具体的な政策の提案という形で現れる。イランとの関係の再構築などがそうだ。

しかし論説にはいくつかの事実誤認がある。バイデン政権がいつ発足したかを示す日数を伴う言及がそれに当たる。これは以下の事実によるものだろう。チャットGPTを手掛ける企業「オープンAI」は注意書きの中で、「デフォルトモデルのトレーニングデータは2021年で中断されている。そのため最近の出来事の知識は欠如している可能性がある」と述べている。

またチャットGPTが作成した論説は、イエメンのアルカイダやシリアのISISへの空爆をバイデン政権が最初に承認したと示唆するが、これらの政策は実際のところ前政権が始めたものだ。さらにバイデン政権下でのイエメンのアルカイダに対する1度の空爆は、米国のものと「疑われる」空爆と報じられており、米国が実施したとは確認されていない。

このほか論説はイラク戦争について、米国が戦った最も長期にわたる2つの戦争のひとつと主張するが、これにも議論の余地がある。ベトナム戦争が10年以上続いたのに対し、イラク戦争が継続したのは03年から米軍が全面撤退した12年までだからだ(その後米軍は14年にイラクに戻ってISISと戦い、数千人が今も駐留している)。

筆者は大学教授として、アリゾナ州立大学でも勤務している。チャットGPTのようなAIツールは、学生のリポートが果たす役割についてもいくつかの興味深い疑問を提起する。こうした課題は、米国の大学教育のまさに中核を構成する部分だ。

筆者はチャットGPTに対して、ごく簡単な歴史にまつわる質問をした。「フランス革命における女性の役割とは何か?」。すると1秒で回答が作成された。

「女性はフランス革命で極めて重要な役割を果たした。それは政治的動乱という背景及び、それがもたらした社会的変革の中においてもそうだ。

女性はバスティーユ監獄の襲撃や王政の転覆に積極的に参加した。また当時の政治的議論に加わったほか、政治クラブの結成、自分たちの権利を主張するパンフレットの執筆にも携わった。革命に関連する祝祭や行進、『恐怖政治』の暴力にも参加した。

フランス革命では新たなタイプの女性も出現した。教育を受け、政治的に活発な『女性市民』たちだ。突き詰めると革命は女性の地位に一定の変化を引き起こし、離婚の権利や資産所有の権利も唱えられたが、こうした進展は長続きしなかった」

この短いリポートは、リチャード・コブやサイモン・シャーマといったフランス革命研究の第一人者の論文とは趣が異なる。また「恐怖政治」の暴力に関する女性の役割を過大評価してもいるが、それでも今後起こり得ることをはっきりと示唆している。学生たちが将来提出する長文の複雑なリポートは、全編AIが作成したものになる公算が大きい。その場合、大学の教養学部で教育を受けることにどんな意味があるのか? わざわざ高い学費を払って大学に通う理由は?

そんなわけで、筆者は厳しい現実と共に23年を迎える。CNNの論説記者としての筆者のキャリアは10年以上前に本格的に始まったが、まだ終わることはなさそうだ。AIの作成する論説にも、人の手によるものと同様に事実誤認がある。それらは大抵、ファクトチェックの段階で見つけられるのだが。

それでも記者という職業は、依然として食料品店のレジの仕事と同じ道をたどり、自動化によって消滅する可能性がある。AIツールは今後もますます賢くなり、AIが書いた論説と「本物の」人間が書いた論説との区別は時が経つにつれ困難になる一方だろう。ちょうどAI作成の学生リポートと、実際に学生の書いたものとを見分けるのが難しくなるように。

1人の記者、そして大学教授として、未来は暗いと言わざるを得ない(この感情がAIに作られたものでないことは断言しておく)。

ピーター・バーゲン氏はCNNの国家安全保障担当アナリスト。米シンクタンク「ニューアメリカ」の幹部で、アリゾナ州立大学の実務教授も務める。トランプ政権と世界情勢を扱った著作がある。記事の内容は同氏個人の見解です。

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