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金の鏡――ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の秘密に迫る

NASA

米航空宇宙局(NASA)がジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げ準備を進めている。金の主鏡を通して恒星を観測する計画だ。

主鏡は一枚鏡ではなく、ベリリウム製のセグメント18枚で構成。反射能力を最大化するため極薄の純金でコーティングされている。口径は6.5メートルに達する。

ウェッブの光学望遠鏡部の開発責任者を務めるリー・ファインバーグ氏は、「これほど大きな鏡が宇宙に打ち上げられたことはかつてない」と指摘する。

打ち上げ予定は2021年。88億ドル(約9430億円)規模のプロジェクトとなり、天文学者にこれまでにない宇宙の眺めをもたらす見通しだ。

太陽系の謎の解明に加え、他の恒星の周囲を観測したり、宇宙の構造や起源などを調査したりするのにも使われるという。

ウェッブは1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡の後継機となる。

2017年の「スーパーボウル」でお披露目された実物大の複製
2017年の「スーパーボウル」でお披露目された実物大の複製

ハッブルは高度約340マイル(約547キロ)の地球軌道を周回しているが、ウェッブが投入されるのは100万マイル近く離れた「L2」と呼ばれる場所だ。「L2」はいわゆるラグランジュ点のひとつ。

ラグランジュ点では地球と太陽の重力が均衡するため、この場所に物体を投入すると2天体に対して相対的に固定した位置にとどまることが可能になる。従って、ウェッブはエンジンや推進力なしで宇宙空間を飛行でき、視界を遮られることもない。

ウェッブは可視光ではなく赤外線放射を通じて、より深い宇宙を観測することもできる。ハッブルや人間の目が見ているのは可視光だ。赤外線観測では、熱を放出して観測に干渉してしまう可能性を避けるため、鏡そのものは超低温にする必要がある。

「温かい物体は赤外線を放出することから、ウェッブの主鏡がハッブルと同じ温度だった場合、鏡そのものの赤外光の中で遠方の銀河のかすかな赤外線が見失われてしまう可能性がある」(ファインバーグ氏)

SXSWに登場した実物大の模型
SXSWに登場した実物大の模型

太陽熱からの保護のため、鏡は特製の耐熱物質で作られた約21メートルの遮光シールドに取り付けられる見通し。シールドは巨大なたこのような外見で、鏡を零下223度に保つ役割を果たす。

鏡の個々のセグメントは重さ20キロ、幅1.3メートル。全体ではハッブルの主鏡(約2.4メートル)をはるかに上回る大きさとなる。

鏡が巨大になればそれだけ性能も向上する。ファインバーグ氏は、「望遠鏡の感度は観測対象の光を収集する鏡部分のサイズに直接関連してくる。鏡部分が大きくなれば収集できる光の量も増す」と指摘する。

ただ、ロケットに搭載して宇宙に送るためには、主鏡を折りたたむ必要がある。主鏡が六角形のセグメントで構成されているのはこのためだ。

「六角形にすることで円形に近く、充てん率の高いセグメントが可能になる。個々のセグメントが隙間なく組み合わされる形だ。もしセグメントが円形だとすると、隙間が生じてしまう」

宇宙空間に到達した後は、こうした鏡の焦点を遠方の銀河に合わせることが課題になるという。望遠鏡を展開して冷却し、あらゆるセグメントを正しく配置するだけでも2カ月を要する見込みだ。

正しい位置に配置するため、個々に鏡には「アクチュエーター」と呼ばれる小さなモーターが6個搭載されている。これはウェッブの革新的な部品のひとつで、ナノメートル単位(ナノは10億分の1)での精密な動きを可能にする。

ジェームズ・ウェッブ望遠鏡の名称は、1960年代にアポロ計画の導入を監督した元NASA長官にちなんだものだ。主鏡も含めすでに完成しており、現在はカリフォルニア州の海岸地帯で試験を行っている段階。打ち上げは何度か延期になっており、直近では今年に入り、2021年に延期するとの発表があった。

NASAによれば、個々の部品は完全に稼働可能な状態だが、全体の連携を確認するためさらなる試験が必要になるという。

1990年に行われたハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げでは大きな失敗が起きた。試験段階の調整ミスで主鏡の形状に問題があり、送られてきた画像はピンぼけしていたのだ。これが修復されたのは3年後で、11日間にわたって35時間の船外活動が行われた。

鏡面の検査を行う技師
鏡面の検査を行う技師

ウェッブはハッブルとは異なり宇宙空間のかなたに投入されることから、救出ミッションで到達することは不可能。このため、NASAは今回こそは成功させる必要がある。

ファインバーグ氏は「ハッブルのようなミスの再発防止に向けて多面戦略を取った」と説明。鍵となる光学パラメーターの重点チェックや、望遠鏡全体の徹底試験などを行ったという。

ウェッブが最初に発表されたのは1996年。原寸大の模型が世界十数カ所の都市を巡り、人々の期待感をかき立ててきた。その外観の良さと美しいシンメトリー(対称性)から、絵画や宝石など芸術分野での派生作品も生まれている。

しかしファインバーグ氏によれば、これは意図的な狙いではなかった。「我々は科学的な目標の達成に向けて工学的な理由から主鏡を最適化した。美的な側面でも達成があったのはうれしい偶然だった」

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