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希少なチャーチル作の風景画、A・ジョリー出品の競売で最高落札額記録

ウィンストン・チャーチル作「クトゥビーヤ・モスクの塔」

ウィンストン・チャーチル作「クトゥビーヤ・モスクの塔」/Christie's Images Ltd

英国のチャーチル元首相が描いた希少な絵画がこのほどロンドンでオークションにかけられ、本人の作品としては過去最高額の約830万ポンド(約12億4000万円、手数料込み)で落札された。チャーチルが第2次大戦中に米国のルーズベルト大統領(当時)に贈ったこの風景画は複数の人のもとをわたり歩いた後、米女優アンジェリーナ・ジョリーさんのコレクションに加わっていた。

「クトゥビーヤ・モスクの塔」と題されたこの風景画は今月1日、ジョリー・ファミリー・コレクションが出品。建物の影が長く伸びるモロッコの都市マラケシュの夕暮れ時を、温かみのある色調で描いている。こうした景色はチャーチルが好んだ主題の一つだ。

チャーチル自ら描き、ルーズベルトに贈った「クトゥビーヤ・モスクの塔」。第2次大戦中に制作された唯一のチャーチル作品だという/TOLGA AKMEN/AFP via Getty Images
チャーチル自ら描き、ルーズベルトに贈った「クトゥビーヤ・モスクの塔」。第2次大戦中に制作された唯一のチャーチル作品だという/TOLGA AKMEN/AFP via Getty Images

ロンドンのオークション運営会社、クリスティーズで現代英国美術の担当責任者を務めるニック・オーチャード氏は、「チャーチルは1935年に初めてモロッコを訪れ、現地の光の質にほれ込んだ」「自らの作品の中で、かの国を描いたものが最高の部類に入ると感じていた」と説明する。

落札価格は予想された最高値の250万ポンドを3倍以上上回った。これまでのチャーチル作品の最高落札額は、2014年にロンドンのサザビーズのオークションで記録した170万ポンド。

事情に詳しい関係者によると、米俳優のブラッド・ピットさんはチャーチルの描いた夕暮れ時の風景画をジョリーさんへのプレゼントとして11年に購入した。2人は2年間の結婚生活の後、16年に離婚した。

「クトゥビーヤ・モスクの塔」は、チャーチルが第2次大戦中の1939~45年の間に制作した唯一の絵画だ。

1943年1月、モロッコで行われたカサブランカ会談に出席してナチスドイツに対抗する戦略を協議したチャーチルは、ルーズベルトを伴ってマラケシュに赴き、アトラス山脈に沈む夕日を眺めた。2人の短い滞在の記念にと、チャーチルはルーズベルトが発ったすぐ翌日に絵画を制作した。カサブランカ会談の後、2人の指導者はドイツ、イタリア、日本に「無条件降伏」を要求。大戦の行方に後々まで影響を及ぼす歴史的な宣言となった。

ブラッド・ピットさん(右)はチャーチルの風景画を11年に購入し、ジョリーさんにプレゼントした/Kevin Winter/Getty Images
ブラッド・ピットさん(右)はチャーチルの風景画を11年に購入し、ジョリーさんにプレゼントした/Kevin Winter/Getty Images

ピットさんは同作を骨董(こっとう)商のビル・ラウ氏から購入した。ラウ氏は以前CNNの取材に答え、ルーズベルトの息子が60年代に作品を映画製作者に売却したと述べていた。同氏によると、作品は最終的にニューオーリンズにたどり着き、地元の家族の収納室で50年以上保管された後、ラウ氏の手元にわたった。家族の1人から同氏のギャラリーに連絡があったという。

「作品に描かれているのは、2人の世界的な指導者が風景を共有するまさにその瞬間だ。彼らはマラケシュの荘厳な風景を眺めている。太陽がアトラス山脈の向こうに沈む夕暮れ時だ。後にチャーチルがルーズベルトへこの絵を贈ったと聞いて、さらに興味をかき立てられた」(ラウ氏)

モロッコの夕暮れを描いたもう1つのチャーチル作品「マラケシュの風景」/courtesy Christie's
モロッコの夕暮れを描いたもう一つのチャーチル作品「マラケシュの風景」/courtesy Christie's

チャーチルが絵画を始めたのは40歳前後になってから。海軍を率いた第1次大戦での作戦で失敗し、第一海軍卿(きょう)の称号を失って間もないころだ。画家として遅咲きだったにもかかわらず、その後は多作ぶりを発揮し、生涯の間に500点を超える作品を残した。

チャーチル絵画の市場は成長の一途をたどっている。今回のクリスティーズのオークションでは、「クトゥビーヤ・モスクの塔」以外にも2つの作品が予想を上回る価格で落札された。

同じくチャーチル好みの光にあふれる景色を描いた「マラケシュの風景」は190万ポンド近い値をつけ、「セントポール大聖堂のチャーチヤード」は110万ポンド近くで落札された。どちらも予想最高落札額の3倍を超えた。

クリスティーズのオーチャード氏は、チャーチル作品への旺盛な需要を今回のオークションでまざまざと見せつけられたと語った。

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