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欧米博物館の「盗まれた」国宝、今こそ返還の時

古代ギリシアの神殿に施された「エルギン・マーブル」の名で知られる彫刻物

古代ギリシアの神殿に施された「エルギン・マーブル」の名で知られる彫刻物/FUTURE LIGHT/Photolibrary RM/Getty Images

西欧の博物館は今、19世紀に植民地軍によって略奪されたり、貪欲な布教者や悪い大使らによって不当に奪われた国宝の返還要求に悩まされている。

マクロン仏大統領の依頼で作成された報告書によると、アフリカの文化財の9割が欧州の博物館に保存されているという。マクロン大統領は、その大半の返還を決断した。しかし、大英博物館は、イギリスの外交官第7代エルギン伯爵トマス・ブルースが盗んだ「エルギン・マーブル」の半分をギリシャに返還するのを拒んでいる。

法律上、窃盗犯は、盗んでからどれだけ時間がたっても、また窃盗犯がそれらにどれだけ改良を加えたとしても、不正な手段で得た利益を保持することは許されない。かつて、多くの文化財が、現在は独立国家となっている場所から不当に奪われた。文化財を奪われた国々は、文化財が作られた場所、そしてそれらの重要性を最も良く理解する人々に返還されることを願っている。

大英博物館に展示されている古代エジプトの「ロゼッタ・ストーン」Dan Kitwood/Getty Images
大英博物館に展示されている古代エジプトの「ロゼッタ・ストーン」Dan Kitwood/Getty Images

ニューヨークのメトロポリタン美術館、J・ポール・ゲティ美術館、ルーブル美術館、大英博物館、ベルリンのフンボルト・フォーラムなど、世界の巨大な美術館・博物館は、侵略戦争や窃盗などの犯罪行為によって奪われた他国の貴重な文化遺産を保管してきた。その多くは、今なら人道に対する罪とみなされる行為の過程で植民地軍によって奪われたにも関わらず、その文化遺産を所蔵する美術館・博物館は、それらの返還を拒否している。自分たちには「戦利品」を保有する資格がある、というのが彼らの主張だが、現在の国際法はそのような主張を認めていない。あるいは、「拾った物は自分の物」という校庭の原理・原則に頼るしかない。その「拾い方」がどれほど不道徳な方法であってもだ。

マクロン大統領は2017年に、「これ以上、アフリカの文化遺産を欧州の美術館・博物館の囚人のように収容しておくわけにはいかない」と宣言した。同大統領は現在、ナイジェリアに対し「ベニン・ブロンズ」と呼ばれる青銅彫刻の一部を返還している。これらの彫刻はフランスが購入する前の1897年、英国陸軍が英国人殺害の報復としてベニン王国(現在のナイジェリア南部)に対して行った討伐の最中に奪ったものだった。大英博物館はフランスよりもはるかに多くのベニン・ブロンズを保有しているが、同博物館の理事らは返還について話し合うことすら拒んでいる。

大英博物館に展示されている「ベニン・ブロンズ」。ナイジェリアのベニンシティに新たに建設される博物館への貸し出しが決まっている Dan Kitwood/Getty Images
大英博物館に展示されている「ベニン・ブロンズ」。ナイジェリアのベニンシティに新たに建設される博物館への貸し出しが決まっている Dan Kitwood/Getty Images

過去に征服されたり、植民地化された国々は、奪われた国宝の返還を要求する決意を固めており、マクロン大統領の宣言は、植民地時代の略奪行為の被害者に「正義をもたらすもの」として歓迎されている。

英国、アイルランド、米国の裁判所も不当に取得した財産は返還されるべきとの原則を認めており、国家は「国の遺産の要」を構成する物に対し「主権」を有するとの判決を下している。また複数の人権条約も「文化をコントロールする権利」を承認する形でこれらの主張を支持している。

1868年、エチオピアとの「マグダラの戦い」に勝利した英国軍が持ち帰った王冠。ロンドンのビクトリア&アルバート博物館に展示されている DANIEL LEAL-OLIVAS/AFP/AFP via Getty Images
1868年、エチオピアとの「マグダラの戦い」に勝利した英国軍が持ち帰った王冠。ロンドンのビクトリア&アルバート博物館に展示されている DANIEL LEAL-OLIVAS/AFP/AFP via Getty Images

しかし、問題を複雑化させているのは、英国をはじめとする欧州各国の「拾った物は自分の物」という植民地法だ。国立博物館・美術館が、保有する文化財が盗品であったり、武力で奪い取られた物であっても手放せないのはこの法律があるためだ。これらの法律は改正し、美術館・博物館の理事に返還の決定権を与えると同時に、理事自身も変わる必要がある。

現在、英国の美術館・博物館の理事の大半は、政府に任命された億万長者の企業家たちだ。彼らが美術館・博物館の職員らに選任されるとしたら、略奪された国宝の返還に前向きになるかもしれない。

ジェフリー・ロバートソン氏は人権派弁護士、学術研究者であり、文中のエルギン・マーブルに関する著書もある作家。記事における意見や見解は全てロバートソン氏個人のものです。

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