Architecture

大富豪マーク・ローリー氏、総工費4000億ドルの巨大都市建設計画を発表

米国に建設予定の巨大都市「テロ―サ」のビジュアルイメージ

米国に建設予定の巨大都市「テロ―サ」のビジュアルイメージ/Bjarke Ingels Group and Bucharest studio

東京の清潔さ、ニューヨークの多様性、ストックホルムの社会サービス:億万長者のマーク・ローリー氏は、500万人が居住可能な「アメリカの新しい都市」のビジョンの概要をまとめ、その設計を担う世界的に有名な建築家を指名した。

今ローリー氏が必要としているのは、その都市を建設する場所、そして建設費用の4000億ドル(約44兆3000億円)だ。

ウォルマートの元幹部であるローリー氏は、最近、持続可能な巨大都市「テローサ」の建設計画を発表した。ローリー氏は、この都市を米国内の砂漠にゼロから建設したいと考えている。広さ約607平方キロのこの野心的な都市建設案には、環境に配慮した建築、持続可能なエネルギー生産、さらに渇水にも耐えうるという水道システムが盛り込まれている。また、いわゆる「15分都市デザイン」により、住民は自宅から15分以内で職場、学校、各種公共施設に行けるようにする。

プランナーたちはまだこの都市を建設可能な場所を探しているが、同プロジェクトの公式サイトには候補地としてネバダ州、ユタ州、アイダホ州、アリゾナ州、テキサス州、アパラチア地域が挙がっている。

今回の発表には、ローリー氏のユートピアの夢の実現を託された建築設計事務所ビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)による一連のデジタルレンダリング画像が付されていた。これらの画像には、緑で覆われた住宅や、豊富なオープンスペースで楽しむ住民の姿が描かれている。また都市内では化石燃料を動力源とする車の走行が禁止されているため、スクーターや歩行者の横で、日に照らされた通りを走行する自動運転車も描かれている。

また別の画像に描かれているは、「都市のビーコン(灯台)」とされる超高層ビル「エクイティズムタワー」だ。このビルは、高架貯水槽、エアロポニックス(空中栽培)農園、生産した電気の共有・分配が可能な太陽光発電屋根を特徴としている。

建設の第1段階では、広さ約6平方キロの都市に5万人が居住可能で、建設費用は推定250億ドル(約2兆8000億円)に上る。プロジェクト全体の総工費は4000億ドル(約44兆円)を超えると見られ、40年以内に、目標とする人口500万人に到達する見込みだ。

同プロジェクトの事務局によると、建設資金の調達先は、民間の投資家、慈善家、国や州からの助成金、経済開発助成金など多岐にわたるという。プランナーたちは、2030年までに最初の住民を受け入れるのを目標に、「早急に」州当局者との交渉を開始したい考えだ。

新しい都市モデル

このプロジェクトは、革新的な都市デザインに加え、透明性のある管理・運営と「社会の新しいモデル」を約束する。「テローサ」という名前は、古代ギリシャの哲学者アリストテレスが、固有の、あるいは、より重要な目的を表現する際に用いた古代ギリシャ語の「テロス」という言葉に由来する。この都市では、住民らが意思決定や予算編成に参加でき、当面はコミュニティー・エンダウメント(基金)が住民に土地の共同所有権を提供する。

プロモーションビデオの中で、ローリー氏は「(テローサは)世界で最もオープンで、最も公正で、最も包括的な都市」と表現している。

ローリー氏は、ネット通販サイト、ジェット・ドット・コムを創業した後、16年に同社をウォルマートに売却し、同社の米国内電子商取引(EC)部門の社長兼最高経営責任者(CEO)に就任した。しかし今年1月にウォルマートを退社し、退職後のプランとして、リアリティーテレビ番組の制作、スタートアップ企業のアドバイザー、「未来の都市」の建設を挙げていた。

テローサの公式サイト上で、ローリー氏は米国の経済学者で社会理論家のヘンリー・ジョージに刺激を受けたと説明している。ローリー氏は、資本主義の「重大な欠陥」を挙げ、その多くは「米国でも採用されている土地所有権モデル」が原因と述べている。

ローリー氏は、同プロジェクトのプロモーションビデオの中で「これまでゼロから建設された都市は、むしろ不動産プロジェクトに近い」と述べ、さらに次のように続けた。

「多くのプロジェクトは、人々が中心に据えられていない。もし人々を中心に据えて(プロジェクトを)開始していたら、すぐに『(そのプロジェクトの)使命は何か、どのような価値があるか』と考えるだろう」

「テローサの使命は、より公平で持続可能な未来を築くことだ。それこそがわれわれの目標だ」(ローリー氏)

一方、BIGの創業者であるデンマークの建築家ビャルケ・インゲルス氏は、「(テローサは)スカンジナビア文化の社会的、環境的配慮と、よりアメリカ文化的な自由やチャンスを具現化している」と述べている。

BIGは、これまでもいくつかの新しい都市の設計を行ってきた。コペンハーゲンの発電所の上にスキー場を設置したり、ロンドンとカリフォルニアのグーグルの新本社を共同設計したことでも知られる。20年1月には、トヨタ自動車が、富士山麓に建設する2000人が居住可能な未来都市の基本計画の作成をBIGに依頼したことを明らかにした。「ウーブン・シティ」と名付けられたこのプロジェクトは、テローサと比べるとはるかに小規模だが、この都市で自動運転車やスマートテクノロジー、生活支援ロボットの実証実験が行われる見込みだ。

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