今年７月、世界最大級の天文博物館「上海天文館」が中国・上海にオープンした。複雑な曲線で構成された建物の外観は、宇宙の構造を反映したデザインになっている。全体的に直線や直角は使わず、重なり合う３つの円弧（えんこ）で構成することにより天体の運行軌道を表現している。
７月にオープンした建築面積約３万９０００平方メートルの上海天文館は、上海科学技術館の分館で、複数の展示エリア、プラネタリウム、展望台、高さ約２４メートルの太陽望遠鏡を備える。建物のデザインを考案したのは米建築設計事務所エンニアド・アーキテクツだ。同事務所は、２０１４年に開催された国際コンペで優勝し、同天文館の設計を手掛けることになった。
上海天文館は意図的に直線や直角を使わずに設計されている/Courtesy Ennead Architects
エンニアド・アーキテクツのリードデザイナー兼パートナーのトーマス・Ｊ・ウォン氏はビデオインタビューの中で、「このデザインをうまく活用すれば、ここでの体験全体に素晴らしいインパクトが与えられると考えた」と述べ、「この建物は、天文学からヒントを得たデザイン（中略）を具現化したものだ」と付け加えた。
ウォン氏の設計チームは、直線的な壁を捨て、曲線を採用することにより、宇宙に存在するあらゆる物が常に移動し、多くの力に支配されていることを表現したいと考えた。
またウォン氏らは、いわゆる「三体問題」にも影響を受けたという。三体問題とは、惑星、月、恒星などの３つの天体の動きを互いの重力関係を基にいかに数学的に計算するかという問題で、いまだ解明されていない。天体が２個の場合は計算可能だが、３個になると経路が混沌（こんとん）とし、予測不能となる。
オクルス（円形の天窓）は時計として機能し、時間や季節が分かる仕組み/Courtesy Ennead Architects
ウォン氏は「三体問題に興味を持った理由は、それが複雑な軌道の集まりだからだ」と述べ、「（これらの軌道は）中心の周りの単純な円とは違い、動的な関係だ。（このようなデザインにした）目的のひとつがまさにそれだった。つまり、その複雑さを形にしようとした」と付け加えた。
ウォン氏が設計の中で、この宇宙の謎を形にしたのがオクルス（円形の天窓）、球体、反転ドームの３つで、それぞれ太陽、月、星を表現している。この３つは、それぞれ重要なアトラクションやデザイン上の機能を備えている。
訪問者が最初に目にするのが、正面玄関の上部に位置するオクルスだ。このオクルスは時計として機能し、日中、この天窓から差し込む日光の輪が床の上を移動することにより、時間や季節が分かる仕組みになっている。
プラネタリウムは球体の内部にあり、巨大な球体は浮いているように見える/Courtesy Ennead Architects
次に目にするのがプラネタリウムだ。このプラネタリウムは球体の内部にあり、月の出のように建物の天井から現れる。この巨大な球体の底部はまるで無重力で浮いているように見え、その下を歩くこともできる。
そして最後に登場するのが、屋根の最上部にあるガラス製の広大な反転ドームだ。このドームの上にある屋上スペースでは広々とした夜空を眺めることができる。プレスリリースによると「館内での宇宙の疑似体験の締めくくりとして、実際に宇宙と出会える場所」だという。
「ここを訪れる人々に、我々が知る宇宙の他の場所と異なり、生物が存在する場所としての地球の特質を理解してもらいたい」とウォン氏は言う。
屋上スペースでは広々とした空を眺めることができる/Courtesy Ennead Architects
米中両国にオフィスを構えるエンニアド・アーキテクツは、ニューヨークのアメリカ自然史博物館内にあるローズ地球宇宙センターの設計も手掛けており、エンニアドの創設者の１人であるジェームズ・ポルシェク氏と共同で設計した。ウォン氏によると、上海天文館とローズ地球宇宙センターには類似点があるという。
ウォン氏は「ポルシェクはローズ地球宇宙センターを『宇宙（のように壮大な）大聖堂』と呼んだ」と述べ、「それこそまさに、この上海天文館での体験を表現するのにふさわしい言葉だ」と付け加えた。
