Architecture

完璧なミニチュア世界を設計する 建築家とファンが作るレゴ

Tate/Joe Humphrys

世界各地で都市建設に当たる多くの建築家は、レゴの影響を認めている。デンマークの玩具会社である同社のプラスチック製のブロックといえば、寝室に散らかっているのが50年以上おなじみの光景だった。

しかし近年、現役の建築家とレゴ社はかつてない取り組みを共同で進めており、小さなブロックがいかにして新たなデザイン思考を触発できるか模索中だ。それもミニチュアと大規模なものとの両方で。

建築家が新タイプのレゴをつくる一方、レゴや同社の巨大なファンコミュニティーの側でも新境地を開拓しつつある。狙いは想像力豊かでありながら直感的に理解可能なモデルを生み出し、設計や建設の方法について新世代ユーザーの学びを促進することだ。

「上海スカイライン」のセット/Courtesy Lego
「上海スカイライン」のセット/Courtesy Lego

レゴは2008年に建築に特化したシリーズの発売を開始し、米ニューヨークのグッゲンハイム美術館やシンガポールのホテル「マリーナベイ・サンズ」などにラインアップを広げてきた。また、新たに発売されたスカイラインシリーズでは、シドニーやパリ、ロンドンといった都市の景観を再現している。

レゴの上級デザイナー、ロク・ズガーリン・コーベ氏はレゴのキットで有名建築を再現するといううらやましい仕事に就いている。スロベニア人建築家の同氏にとって夢のような役割で、子どもの頃の念願がかなったという。

「若手の建築家なら、いつだって高層ビルや都市全体、美術館を手掛けたいもの。でも私の場合、スケールについては余り具体的じゃなかったみたいだね」とコーベ氏は笑う。「私は夢のような仕事を手にした。ただし卓上サイズさ」

コーベ氏によると、現実の建築をレゴにする過程はまず、元の設計者の心理を探るところから始まる。続けて建築家のスケッチや平面図とにらめっこし、その建物がどうやって形作られたのか理解を図る。

レゴが現実の構造に似ているだけでは不十分で、建設に至る物語を表現することが必要だと、コーベ氏は説明。エンパイアステートビルのモデルを例に取り、「本物は鉄桁を接合して建てられた。作業員が巨大な梁(はり)の上に座る有名な写真は知っているだろう」と問いかけた。

コーベ氏がモデルの正面部を取り外すと、内部の鉄骨構造のレプリカが出現。その下には5番街からの訪問客を迎えるロビーのミニチュア版がある。完成モデルでは隠れているものの、コーベ氏の目にはお見通しだ。

レゴの「エンパイアステートビル」/Courtesy Lego
レゴの「エンパイアステートビル」/Courtesy Lego

さらにスカイラインシリーズでは、「芸術的自由」の余地も大幅に広がったという。

サンフランシスコを再現するに当たり、デザイナーは現実の距離を無視。強制遠近法を活用して戯画に近い都市を生み出し、アルカトラズ島やゴールデンゲートブリッジ、「ペインテッドレディース」の名で有名な家並みを巧みに配置した。

冒険的な表現から前衛へ

レゴの公式商品では世界の都市がそろっているが、熱心なファンの間では自分なりに有名な建築や地元の観光名所を再現する取り組みも広がっている。

レゴに関する著書があるトム・アルフィン氏によれば、ファンによるキット製作は一大事業で、ブロックの大量購入から手作業での分類、説明書の執筆、包装のデザインまで全てデザイナーが手掛ける。

出来上がった作品はファンの集まりやウェブサイトで売買される。こうしたグレーマーケットには危険な釘や、ピース同士を無理やりつなげるタブーの「違法な接合方法」もある。

アルフィン氏によると、レゴの公式デザイナーが注意すべき点は建築面の正確性だけにとどまらない。自分のデザインが安全基準を含むレゴの社内規定を満たすよう徹底する必要があり、例えば、転んだ子どもにモデルが突き刺ささるような事故を確実に防ぐことが求められる。

しかしファンの自作キットの場合、デザイナーは自由に情熱を追求することができる。その一例がオーフス市庁舎のミニチュア版で、デンマーク人の建築家2人は持てるスキルを駆使して特徴的な時計塔を小型化した。

ファンはまた、建築家ノーマン・フォスター氏による香港上海銀行・香港本店ビルや、パリのノートルダム大聖堂にみられるゴシック様式の曲線など、野心的な建築様式の再現も試みてきた。

レゴの「中銀カプセルタワービル」/Matthew Allum
レゴの「中銀カプセルタワービル」/Matthew Allum

フランク・ゲーリーやザハ・ハディド、ダニエル・リベスキンド各氏が手掛けたパラメトリック建築の曲線は、ブロックを通じて世界を見るというレゴの仕組みにとってユニークな挑戦になるという。

レゴのアイデアを募集するサイトには最近、米ミルウォーキー美術館の再現を試みた印象的な作品も寄せられた。縦横に伸びる帆のような形が特徴的な美術館はスペイン人建築家のサンティアゴ・カラトラバ氏が手掛けたもので、ファンのデザイナーの真価が問われる建築になっているという。

コミュニティーの共同作業

ロンドンのテートモダン美術館で開かれた展示会では、レゴのブロックを利用して未来のデザインを構想するという主題が据えられた。

デンマーク系アイルランド人のアーティスト、オラファー・エリアソン氏は美術館中央部の広大な展示スペースにトラック1台分の白いブロックを置き、ロンドンの地図をかたどった全長10メートルのテーブル2台に「未来の都市」を築くよう呼び掛けた。

ロンドンのテートモダン美術館で開かれた展示会では、レゴのブロックを使った「未来の都市」の建築が呼び掛けられた/Tate/Joe Humphrys
ロンドンのテートモダン美術館で開かれた展示会では、レゴのブロックを使った「未来の都市」の建築が呼び掛けられた/Tate/Joe Humphrys

2週間目には北朝鮮の「柳京ホテル」に似た巨大ピラミッド構造がそびえ、精緻な細い摩天楼や、パスタの形をした高層ビルを見下ろすようになっていた。

テートモダンの上級学芸員、マーク・ゴッドフリー氏は「街並みの変化を確認するには、ほぼずっとあの場所にいる必要がある」「私は1時間あそこに座って人々を見ていた。驚くことに、利用できる限られた数のレゴブロックから多彩な種類の建造物が生まれてくる」と話す。

今日のレゴキットの多くは「ハリー・ポッター」のホグワーツ城や「スター・ウォーズ」の宇宙船ミレニアムファルコンなど、ありとあらゆる建物を自社ブランドで再現することに焦点を置いているが、エリアソン氏はこうした経験を最小限に切り詰め、コミュニティーが街並みを作っては再生していく様子を確認したという。

現実そっくりのキットは印象的だが、建築家とレゴのコラボにとって確かな土台となるのはやはり、こうした結果を気にせず気軽に実験する自由だ。

建物はかなりの高さにまで到達した/Tate/Joe Humphrys
建物はかなりの高さにまで到達した/Tate/Joe Humphrys

ゴッドフリー氏は展示について、あらゆる年齢層や背景の人々を集めてレゴの楽しさをたたえる機会になったと振り返る。1970年代に幼少期を送った同氏が覚えているのもそんな体験だ。

「望むままに何でも自由に建てていい」「レゴの醍醐味(だいごみ)は指示に従うのではなく、創意工夫をこらして建物を建てることだ」

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