「強引さ」増す中国、周辺国と紛争の恐れも 南シナ海情勢

海洋権益の歴史を振り返る

香港(CNN) 今年前半に南シナ海のボルネオ島近くで、1カ月以上にわたり中国船とマレーシア船の一触即発のにらみ合いが続いた。

アジア海洋透明性イニシアチブ(AMTI)が分析した衛星画像によると、マレーシア公認の掘削船ウエスト・カペラが、中国政府も領有権を主張する海域で資源探査を行っていたところ、中国海警局の船に付き添われた中国の調査船もその海域に入り、調査を開始した。

そこでマレーシアはこの海域に海軍艦艇を派遣し、その後、同艦艇は南シナ海でマレーシア海軍と合同演習を行っていた米軍艦の支援を受けた。

中国政府は「中国の領海内での通常の活動」を行っているだけだと主張したが、中国船は、かなり以前から、中国が領有権を主張する海域で資源探査を行う他国の船をしつこく追跡すると批判されている。

今や、中国船は活動の「強引さ」の度合いを強めつつあり、マレーシアやインドネシアといった南シナ海周辺の主要国との新たな紛争を引き起こす恐れがあると専門家らは指摘する。

中国船が南シナ海で活動範囲を拡大している最大の理由は、中国政府が南シナ海で人工島の建設を進めているためだ。そのため、南シナ海周辺国の重要性はこれまで以上に高まっているとAMTIのディレクター、グレッグ・ポーリング氏は言う。

ポーリング氏は、「(人工島は)将来、中国船の基地となるため、マレーシアとインドネシアは事実上、対立の前線に置かれることになる」とし、さらに「毎日、十数隻の中国海警局の船がスプラトリー(南沙)諸島周辺を巡回し、約100隻の漁船がいつでも出動できる態勢にある」と付け加えた。

九段線

南シナ海は、中国をはじめ、ベトナムやフィリピン、マレーシア、ブルネイ、台湾、インドネシアが領有権を主張しており、世界で最も激しく領有権が争われている場所のひとつだ。


中国政府が南シナ海における領有権を主張するために、同国の南シナ海周辺の地図上に引かれている破線は「九段線」と呼ばれるが、その範囲は他国が領有権を主張する範囲と比べて飛びぬけて広く、海南島からインドネシアの先端まで、南シナ海のほぼ全域を占めている。しかし、中国の領有権の主張は、国際法上の根拠を欠いており、2016年の国際法廷で無効判決が下された。

それにもかかわらず、中国政府は2015年ごろから、南シナ海の岩礁や浅瀬に人工島を建設し、それらの島に滑走路や港、レーダー施設などの軍事施設を建設することにより、領土的野望を強化し始めた。

また専門家らによると、中国政府は、中国海警局と漁船で構成される船団を結成したが、この船団は、領有権を主張する他の国々の船への嫌がらせや、政治的にデリケートな海域に入る目的で南シナ海に派遣が可能だという。

不安定な南シナ海情勢

中国政府は、南シナ海において、長年にわたり他国の船への嫌がらせを続けている。大半はベトナムとフィリピンの船だが、マレーシアやインドネシアの船が被害に遭うこともある。

F16戦闘機の離陸の準備を行うインドネシア空軍=2020年1月/STR/AFP/AFP via Getty Images
F16戦闘機の離陸の準備を行うインドネシア空軍=2020年1月/STR/AFP/AFP via Getty Images

中国政府が南シナ海で強硬姿勢を強めている理由のひとつは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)だと専門家らは指摘する。パンデミックは、中国の急速な経済発展に大打撃を与えているだけでなく、中国の国際的な評判も損ねている。

新型コロナウイルスの最初の発生を食い止める上で中国政府はどのような役割を果たすべきだったかといった点や、中国政府が全世界で多くの死者を出しているパンデミックへの対応に十分な時間を世界に与えたかといった点をめぐり、欧米と中国の間で緊張が高まっている。

中国共産党は、党の権力支配が低下しつつあるとの印象を与えることを懸念し、発言や、南シナ海の支配などの国家主義的アジェンダ(議題)を強化している、と専門家らは指摘する。

シンガポールのシンクタンク、ISEASユソフ・イサーク研究所の上級研究員イアン・ストーリー氏によると、中国政府は南シナ海への影響力を強固なものにするために、米国の世界的大国としての影響力が低下しつつあるという「物語」を広めようと躍起になっているという。

これまでマレーシアとインドネシアは南シナ海の問題で中国との関係が悪化しないよう努めてきたが、中国政府が同海域における領有権を強く主張しているため、「静かな外交」の時代は、永遠には続かないかもしれない。

足並みそろわぬ中国への対応

東南アジア諸国は、中国が各国の領海近くに居座っている今こそ、一致団結し、中国政府に立ち向かうべき時のように思える。

新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、米海軍は南シナ海で中国に対する軍事的プレゼンスを高めている/Smith Collection/Gado/Getty Images
新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、米海軍は南シナ海で中国に対する軍事的プレゼンスを高めている/Smith Collection/Gado/Getty Images

しかし、ストーリー氏は、南シナ海周辺の国々は自国の経済的、政治的危機に加えて、コロナウイルス対策にも追われており、東南アジア諸国連合(ASEAN)の団結は望み薄とし、2020年の年末にかけ、中国は南シナ海において強引な行動をさらに強化するだろうと指摘する。

AMTIのポーリング氏によると、マレーシアは長年、中国との緊密な関係の恩恵と、独自の独立した外交政策の実施とのバランスを取るよう努めており、前回のマレーシア領海での中国船との衝突が可能な限りマスコミに伏せられていたのもそのためだという。

一方、インドネシアは以前、同国の領海から去らなかった中国の漁船に発砲した。また、同国のジョコ・ウィドド大統領は、1月に中国の漁船がナトゥナ諸島周辺に侵入した際にも断固とした行動を取り、他国の領海への侵入を見過ごさないとの姿勢を示した。

しかし、専門家は中国も簡単には引き下がらないと指摘する。

外交政策研究所の上級研究員フェリックス・チャン氏は1月、「中国政府は、インドネシアはいずれ折れると見ており、最終的にはマレーシアと同様に、中国が南シナ海に駐留することを受け入れる以外、選択肢はほとんど残されていないことに気付くと考えている」と述べた。

一方、中国政府にもリスクはある。

米海軍大学教授で元海軍将校のジェームズ・ホームズ氏は、中国政府が南シナ海への進出を強く推し進めれば進めるほど、中国の侵略を懸念する東南アジアのより多くの国々が手を組み、中国に抵抗する可能性が高いと指摘する。

中国は批判に対してSNSなどで反論する「戦狼外交」と呼ばれる姿勢を強めている/Wolf Warrior II/Deng Feng International Media/China Film Group
中国は批判に対してSNSなどで反論する「戦狼外交」と呼ばれる姿勢を強めている/Wolf Warrior II/Deng Feng International Media/China Film Group

そして、それがいかなる抵抗であっても、中国政府は経済的打撃を被る可能性がある。

中国は、フィリピン、マレーシア、インドネシアなど、南シナ海周辺の多くの国々と緊密な貿易関係を築いており、さらに、中国が推進する経済圏構想「一帯一路」など、同国の国際的アジェンダ(政策課題)の一部としてそれらの国々を必要としている。

ISEASユソフ・イサーク研究所のストーリー氏は、中国は南シナ海における領有権を強く主張しすぎるあまり、東南アジア諸国との関係が完全に崩れることは望まないだろうとの見方を示した。

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