モルモン教、中国で神殿開設目指す 背景に拡大志向のDNA

香港にあるモルモン教の神殿の尖塔に立つ像/Church of Jesus Christ of Latter-day Saints

香港にあるモルモン教の神殿の尖塔に立つ像/Church of Jesus Christ of Latter-day Saints

香港(CNN) 中国・上海の中心部にある高層ビルの会議室。毎週日曜日に末日聖徒イエス・キリスト教会(LSD)の信徒が集まるとき、必ず1人は奥の入り口付近の席に着く。

間違った人が入室するのを防ぐ狙いだ。といっても、宗教上の秘密を守るためではない。モルモン教は特に秘密主義的な信仰ではなく、通常は新たな改宗者を探している。だが、もし通りがかりの中国人が礼拝に加われば、参加者全員が法を犯すことになりかねない。

中国にある国家公認の宗教団体は5つのみで、いずれも共産党の厳しい統制に服している。他の団体はというと、常に摘発の恐れを抱えながら法的に危ない橋を渡っている状況だ。中国政府は外国人による宗教の実践や集団礼拝への参加は認めているものの、少しでも改宗や宣教の動きがあれば厳しく対応する方針で、モルモン教はこうした禁止事項を真剣に受け止めているのである。

「参加希望者には外国人用のパスポートを持っているか尋ねる必要がある」。こう語るのは末日教会の終身教会員、ジェイソンさんだ。上海で10年近く働いた後、2018年に米国に帰国した。

しかも当時はまだ良い時代だった。近年では中国政府は宗教的礼拝への規制を強め、地下教会の取り締まりに乗り出し、外国人のみを相手にグレーゾーンで活動する宗教に対して新たな制限を導入している。

中国国内の教会員向けに作られたモルモン教ウェブサイトのスクリーンショット
中国国内の教会員向けに作られたモルモン教ウェブサイトのスクリーンショット

それだけに、末日教会が4月5日、中国本土初となる神殿を上海に開設する計画を発表すると、一部からは思い切った決定との声が上がった。

モルモン教は現状を変更するつもりはないとしているが、拡大志向のDNAを持つ米国の宗教が中国で公式の神殿を開設するとなれば、議論は避けられないだろう。中国政府の許可が得られない可能性もある。上海当局は先ごろ、神殿開設の発表が事前の承認なくなされたことを示唆したが、専門家の間では、末日教会が明確なゴーサインなしに計画を発表したとは考えにくいとの指摘もある。

現在は末日教会の精神的拠点、ユタ州ソルトレークシティーに住むジェイソンさんはこの発表について「とても信じられなかった」と振り返る。

「現時点で上海に神殿ができるとは思いもよらなかった」「私の微信(ウィーチャット)には瞬く間に、中国の友人と喜びや興奮を語り合う声があふれた」

ジェイソンは仮名。ジェイソンさんはこの記事に登場する他の現教会員と同様、教会指導部の許可無く中国での活動について語るに当たり、匿名を希望した。

布教の始まり

モルモン教は1830年、ニューヨーク州北部でジョセフ・スミスによって設立された。当初6人だった教会員は117年あまりを経て100万人に到達。今日では世界で1650万人以上の教会員を擁し、その大半は米国外の信徒となっている。

教会の真の規模については議論がある(もう活動していない教会員が数字に含まれているとの指摘もある)。ただ、ひとつ明らかなのは、急成長の原動力が何千人もの宣教師の働きにあることだ。

スミスは1831年2月に啓示を受け、神が信者に「各人、私の名の下に旅へ出よ」「あらゆる地域に教会を建設せよ」と語るのを聞いた。

こうして150年あまり前、末日教会は中国にたどり着いた。

もっとも、幸先の良いスタートとは言い難かった。53年、当時の指導者ブリガム・ヤングは3人の宣教師を英領香港に派遣。中国での布教拡大を目指す宣教師にとって、当時の香港は共通の足がかりとなっていた。

しかし香港に到着した宣教師たちは、中国が激しい内戦のただ中にあり、香港市外への渡航には極めて大きな危険が伴うことに気付く。香港市内でも英語メディアがモルモン教に関する扇情的な記事を流し、冒瀆(ぼうとく)との批判を展開していたため、苦境に変わりはなかった。資金は底をつきかけ、中国語の教師を探すのにさえ苦労する状況だった。

米ユタ州ソルトレークシティーに立つモルモン教指導者ブリガム・ヤングの像/GEORGE FREY/AFP/AFP via Getty Images
米ユタ州ソルトレークシティーに立つモルモン教指導者ブリガム・ヤングの像/GEORGE FREY/AFP/AFP via Getty Images

ようやく末日教会が香港に恒久的な拠点を設置したのは1949年のことだ。この時も香港を中国進出の足がかりに使う狙いだった。

教会指導部は中国国内で活動する許可を得ようと、80年から当局への働きかけを開始。86年には北京と西安で集会所として使われる小規模支部が設立されたものの、参加を許されたのは外国人用パスポートを持つ人だけだった。

一見したところ進展は乏しそうだが、教会指導部は中国当局と強固な関係を築いていると主張する。2010年には、中国での活動を「正規化」する方針を表明した。

現在、中国で認められているモルモン教の礼拝は2種類。外国人向けの礼拝と、国外で改宗した中国人向けの礼拝だ。外国人と中国人は別々に分けられており、末日教会は中国人教会員の拡大を試みていると受け止められないよう、細心の注意を払っている。

信頼を醸成する

中国共産党と宗教の関係は常に緊張をはらんできた。中国は公式には無神論を掲げており、数千万人に上る共産党員は信仰を持つことを禁じられている。

憲法上、中国は信教の自由を約束しているものの、活動を許されている宗教は一握りで、いずれも共産党と強いつながりを持つ統括団体の傘下にある。

このうち仏教と道教の2つは国内宗教、それ以外のイスラム教、プロテスタント教会、カトリック教会は外国宗教とみなされる。ただし中国のカトリック団体はローマ教会とは別個に活動している。

他の宗教はグレーゾーンに該当する。中国・国務院は外国の団体への「開かれた」姿勢を強調するが、それも中国の主権および宗教の自主管理の原則を尊重する場合のみだ。

これは実際上、宗教団体の第一の忠誠が外国の教会指導部ではなく、共産党にささげられることを意味する。この点は中華人民共和国の建国以来、バチカンとの間で摩擦の要因になっており、中国のカトリック教徒は国外の教会とは別個に活動していたが、近年は和解に向けた動きも一部で進んでいる。

こうした状況にもかかわらず、中国での宗教活動は拡大傾向にある。ただそれに伴い、「外国」の宗教、特にイスラム教やキリスト教に向けられる疑いの目も強まってきた。最西部・新疆のイスラム教徒は宗教活動を厳しく制限され、一時は広く容認されていたキリスト教の地下教会も取り締まりに直面している。

香港在住の国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」の研究者、ウィリアム・ニー氏は「中国政府は宗教が反政府勢力の受け皿になる可能性を強く警戒している」と指摘する。

「墓掃除の日」とも呼ばれる清明節に、上海の墓地を訪れる女性=2018年4月6日/JOHANNES EISELE/AFP/AFP via Getty Images
「墓掃除の日」とも呼ばれる清明節に、上海の墓地を訪れる女性=2018年4月6日/JOHANNES EISELE/AFP/AFP via Getty Images

非公認宗教の中では、モルモン教はおそらく模範的な存在だろう。現旧の教会員や外部の観測筋は、同教会が細心の注意を払って国内法令の順守に努め、改宗の試みと受け取られかねない行動を一切避けているとの見方で一致する。

ニー氏によると、これと対照的なのが「米国由来の他のプロテスタント教会や福音主義の伝統」だ。これらの宗教は布教目的でより積極的な戦略を取ったり、地下活動を展開したりしているという。

中国で数年前から大学教授として働くサラさんは、「自分がどの教会に属しているのか、そもそも教会に所属しているのかを他人に語ったことはない」と語る。

「キリスト教徒かどうか聞いてくる友人がいればイエスと答えだろうが、中国でそういう話はしない」「相手もうなずいて察するだけ。それ以上は深入りしない」

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