中国人とは――SNSの人気者「ペトロフおじさん」が問いかけるもの

見た目はロシア人だが、中国語をしゃべり中国で暮らすピーター・ペトロフさん

見た目はロシア人だが、中国語をしゃべり中国で暮らすピーター・ペトロフさん

(CNN) 鮮やかな青い瞳に白い肌、ふさふさした茶色の髪――。ピーター・ペトロフさん(44)は普通の中国人男性には見えない。

というのも、ペトロフさんは生まれ故郷の黒竜江省に住むロシア系民族だからだ。このロシア系は中国で公式に認められている55の少数民族のひとつ。

漢族が人口の92%を占める中国では、外見と家系のせいで目立たざるを得ない。ペトロフさんは農家で、話す言葉はきつい東北なまりの中国語だ(ロシア語は話せない)。そんなペトロフさんだが、ある時ほぼ一夜にしてソーシャルメディアのスターになった。

2017年後半、ペトロフさんは中国で人気のストリーミングアプリ「快手(クアイショウ)」に動画を投稿し始めた。動画には飼い犬と遊ぶ様子や、家族とギョーザを食べる場面、トウモロコシや大豆の手入れをする光景が映っている。

それから1年もたたないうちにペトロフさんは人気者になっていた。

中国には55の少数民族がいるが、ペトロフさんもそのうちの一人だ
中国には55の少数民族がいるが、ペトロフさんもそのうちの一人だ

閲覧者の中には外見に混乱する人もいて、ユーザーの1人がどこで「カラーコンタクト」を買ったのかと尋ねる場面もあった。

今日、ペトロフさんは150万人近いフォロワーを抱えている。

「最初はソーシャルメディアを使うのが好きではなかった」とペトロフさん。「でも最終的には素晴らしい経験になった」

しかし、ペトロフさんの動画はSNSのスターを生み出すだけにとどまらず、ネット上で「中国人」の意味合いを巡る論争も引き起こしている。中国社会は民族的には均質で社会への同調が一般的だ。

中国に逃れたロシア人

ロシアでは1917年に十月革命が起こり帝政崩壊につながった。革命中に共産主義を唱えるレーニンが台頭。最終的に権力を掌握し、世界初の共産主義国家であるソ連を樹立した。

1917年から22年にかけて、赤軍と反共産主義勢力の間で激しい内戦が勃発した。内戦中や戦後の混乱期に数千人のロシア人が中国に逃れたが、その中に国境沿いの農村に住んでいたペトロフさんの先祖の姿もあった。

中国では当時、各地の軍閥が勢力争いを展開しており、中国国民党によって形の上で統一されたのは1928年のことだった。

ペトロフさんの曽祖父母は2人の息子を連れて馬ぞりで凍ったアムール川を渡り、黒竜江省遜克県に移り住んだ。夫婦はその数年後に離婚し、曽祖母は漢族の中国人男性と結婚した。

以来、一家は100年近くに同地方に住み続けている。

中国に逃れたロシア人の多くは技術者や商人で、黒竜江省の省都ハルビンに定住した。ハルビンには既に、ロシアの建設業者が東清鉄道の建設に携わる目的で移り住んでいた。やがてハルビンの街並みにはロシア人の商店や大聖堂が立ち並ぶようになり、その多くは今も残っている。

1929年ごろのハルビン/Alamy Stock Photo
1929年ごろのハルビン/Alamy Stock Photo

ただ、中国に渡ったロシア系民族にとって生活が平穏とは限らなかった。

1960~70年代、中ソ関係はイデオロギー上の主導権争いや国境紛争で爆発寸前になっていた。ロシア系民族は二重の忠誠心を持っていると疑われ、「ソ連のスパイ」と非難される場面もあった。

ペトロフさんは2013年のドキュメンタリーで、祖父が「ソ連のスパイ」という汚名を着せられ、商船船長の地位を剥奪(はくだつ)されたと振り返っている。

この作品内でペトロフさんは、結婚を通じて徐々に漢族の血を濃くしていく必要性に言及。そうすれば子孫が将来の差別を免れられるのではないかと示唆した。

もっとも、ペトロフさんは自身をロシア人とはみなしておらず、完全に中国人だと感じているという。

「根本的な変化」

中国には約1万5000人のロシア系が住んでいるにもかかわらず、ペトロフさんの動画に寄せられたコメントでは、東北方言を話せることに驚くユーザーがいた。この投稿者に対し、他のユーザーからはペトロフさんが中国人であることを指摘する返信が付いた。

豪ラトローブ大学のジェームズ・リーボルド准教授は、中国国民にとって、典型的な漢族の身体的特徴を持っていない場合、「真の中国人として完全に受け入れられるのは不可能」との印象があると話す。

「公式政策上の障壁はない。だが、現実には依然として深刻な壁が存在する」

リーボルド氏によると、中国の民族政策は少数民族固有のアイデンティティーの保護と漢族主流文化への統合のはざまで揺れてきた。だが、習近平(シーチンピン)国家主席が2013年に就任して以降、同化政策への傾斜が鮮明になってきたという。

この傾向は新疆ウイグル自治区で最も顕著だ。米政府は中国政府が新疆で最大200万人のイスラム系住民を「再教育施設」に恣意(しい)的に収容していると批判している。

ただしリーボルド氏は、新疆でみられる過酷な戦術が全ての少数民族に適用されているわけではないとも指摘。ロシア系や南西部に住むダイ族など、他の民族集団は政府から政治的に従順とみなされ、有用な反論材料とみられていると説明した。

中国生まれのペトロフさんだが、その外見から、ペトロフさんを「中国人」として受け入れるのに苦労するフォロワーも
中国生まれのペトロフさんだが、その外見から、ペトロフさんを「中国人」として受け入れるのに苦労するフォロワーも

リーボルド氏によると、ペトロフさんの魅力の一端は「外国性」にある。「そこには異国趣味の要素がある。彼は標準中国語を話すが、外見は外国人に見える」

皮肉なことに、もちろんペトロフさんは外国人ではなく中国国民として4世代目だ。

ファンの間でさえ一部ではいまだ、この事実を受け入れるのに抵抗があるようだ。

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