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「拷問で自白を強要」、裁判文書が明かすサウジ死刑囚の主張

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「拷問で自白を強要」、サウジ死刑囚の主張

レバノン・ベイルート(CNN) テロ関連の罪で有罪となりこのほど死刑が執行されたサウジアラビアの死刑囚37人のうち、生前の裁判で完全な無実を訴え、拷問によって自白を強要されたと主張していた者が多数いたことがわかった。CNNが入手した2016年の裁判記録の文書から判明した。

サウジ政府は今月23日、37人の死刑を一斉に執行したと発表した。このうちの1人については執行後、見せしめのためとして遺体をはりつけにしたという。人権団体などによると、これらの死刑囚には被疑事件当時に未成年だった者も3人含まれている。

CNNはこのほど、16年に行われた3つの裁判を記録した法廷文書を入手。これらの裁判には死刑が執行された37人中25人が含まれている。25人のうち11人はイランのスパイとして活動した罪、残りの14人は11年と12年の政府に対する抗議行動中に「テロ集団」を結成した罪でそれぞれ有罪になった。彼らの大半は同国で少数派のイスラム教シーア派に属している。

アブドゥルカリーム・アルハワジさん/Saudi Press Agency
アブドゥルカリーム・アルハワジさん/Saudi Press Agency

死刑囚のうち最年少のアブドゥルカリーム・アルハワジさんは、16歳のときに暴力的な抗議活動に参加していたとして訴追された。国連は17年、死刑判決を批判し、自白を得るために拷問が行われたとしてサウジに判決を覆すように求めた。サウジ政府は拷問を否定し、被告本人が法廷で罪を認めたと返答している。

別の死刑囚、ムジタバ・アルスウェイカトさんは17歳のときにデモに参加したとして12年に逮捕された。米国のウェスタンミシガン大学留学のために東部ダンマンの空港を出発しようとしたところでの逮捕劇だった。

ムジタバ・アルスウェイカトさん/Saudi Press Agency
ムジタバ・アルスウェイカトさん/Saudi Press Agency

法廷文書によると、スウェイカトさんは治安部隊に火炎瓶を投げ、携帯電話を使ってデモの準備を支援するチャットのグループを運営したことを自白した。弁護人を務めた父親は、サウジ国王と皇太子への忠誠を誓う家族に生まれ、品行方正に育った息子だと主張。「存在もしないテロ集団という幻想」を作り上げるために仕組まれた訴追だと述べた。

また、息子がデモに参加したのは2回だけで、それぞれ5分間だけだったとも指摘。孤独な独房に90日間入り、精神的、肉体的な虐待にさらされ虚弱な状態にさせられた上で、「取調官が自白内容を本人に書きとらせ、拷問を止めるには署名が必要だと無理強いし、息子は署名した」と訴えた。だが、スウェイカトさんは有罪となり、死刑が宣告された。

サウジ当局者の一人は23日、CNNに対し、抗議行動に絡んで死刑となった14人について、明白な事件であり、本人たちの自白に基づき「法の裁きが下った」と説明。「無実の人々に血を流させ、王国の安全を脅かし、偉大な信仰をねじ曲げるテロリストには断固とした措置を取るのが政府の長年の方針だ」「死刑囚らは裁判を受け、極めて重大な罪で有罪になった」と強調した。

ただ、裁判記録によれば、死刑囚らは法廷で繰り返し自白が虚偽であると主張し、拷問によって言わされたものだと訴えている。中には、拷問した取調官自ら作成した自白の文書に母印を押させられたと主張する被告もいた。

視覚と聴覚に障害を持つムニル・アルアダムさん(27)は、「自分の言葉ではない」「自分は書面を書いていない」と主張していたが、死刑判決を受け刑が執行された。

CNNは法廷文書に示されている拷問や自白の強要の主張についてサウジ政府にコメントを求めたが、まだ回答はない。

死刑囚の大半が属するシーア派は、同国の政治や経済活動から疎外されているとして長年抗議活動を行ってきた。死刑囚が関わった事件のいくつかは11年の民主化運動「アラブの春」で抗議運動が起きたアワミヤで発生した。同市は著名なシーア派指導者で16年に処刑されたニムル・アルニムル師の故郷でもある。

法廷文書によれば、抗議行動に関する訴追は自白に強く依存していた。死刑判決を受けた14人の自白から、若者の活動家グループが緊密に連携して暴動を準備し、反政府の宣伝活動を組織し、また互いに性的な関係を持っていたとする詳細な状況が描かれている。イスラム法を厳格に適用する同国では同性愛は違法とされる。

性的関係を指摘されたある男性は罪状を否認し、弁護人も取調官が自白を「作り上げた」と主張した。別の死刑囚、フセイン・ムハンマド・アルムサラムさんは鼻や鎖骨、脚の骨折を含む体の複数箇所を負傷したと説明。自白は全くの虚偽で、拷問の証拠となる診断書を刑務所病院から取り寄せてほしいと訴えた。

国際人権団体、アムネスティ・インターナショナルやサウジの活動家によると、死刑囚の家族は事前に刑執行について通知されることはなく、処刑のニュースを知ってショックを受けたという。死刑執行について公にコメントする家族は現れていない。サウジ当局は外国のジャーナリストとの接触は刑事事件の証拠になると言及している。

米国務省関係者は23日の死刑執行に懸念を示し、「サウジ政府や全ての政府に、裁判の保障、恣意(しい)的及び法外な拘束からの自由、透明性、法の支配、宗教や信仰の自由を確保するように求める」と述べた。

サウジでは16年にもテロや過激思想関連の死刑囚47人に刑が執行された。15年にムハンマド・ビン・サルマン皇太子が政治の表舞台に登場して以降、反対分子に対する弾圧が強まっている。最近では有力なビジネスマンや王子、女性の権利の活動家も摘発の対象となっているが、政府は拷問の実施は否定している。

昨年10月にはトルコのサウジ領事館でジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏が殺害された。サウジ政府はこの件の影響を封じ込めようと躍起になっている。米中央情報局(CIA)はムハンマド皇太子がカショギ氏の殺害を命令したと結論付けているが、サウジ政府はこれを否定している。

23日の死刑執行は、首都リヤドで開かれるビジネス関連の大規模会議の前日に報道された。だが、会議には金融界の大物が何人か登壇し、ブラックロックやHSBC、JPモルガンの幹部などが参加した。会議では人権問題を問われることはなかった。JPモルガンやモルガン・スタンレーはこの件でコメントを避け、HSBCやブラックロックはコメント要請に対して直後の回答はなかった。

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