映画「プライドと偏見」から20年、今なお観客を魅了する理由は?

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公開20年を迎えた2005年の映画「プライドと偏見」では、キーラ・ナイトレイがエリザベス、マシュー・マクファディンがダーシーを演じた/Moviestore/Shutterstock

公開20年を迎えた2005年の映画「プライドと偏見」では、キーラ・ナイトレイがエリザベス、マシュー・マクファディンがダーシーを演じた/Moviestore/Shutterstock

(CNN) 2005年の映画「プライドと偏見」の中でも特に象徴的なのが、最初のプロポーズのシーンだ。

まだこの名作映画を観たことがない人でも、あのシーンのことは何となく知っているだろう。雨に打たれ、濡れた髪を額に垂らしたダーシー(マシュー・マクファディン)は気丈なヒロイン、エリザベス・ベネットに愛を告白し、「あなたを愛している。心から」と告げる。

原作になじみのある人には、この先の展開は周知の通りだ。エリザベス(キーラ・ナイトレイ)はダーシーを拒絶する。2人は離ればなれになり、ぎくしゃくした結末の読めないロマンスを続ける。ただしジェーン・オースティンの原作小説では、この場面は屋内で繰り広げられ、土砂降りの雨も、起伏に富んだ丘も背景に存在しない。

また小説ではダーシーの真意を示すヒントは一切なく、プロポーズはまったくの不意打ちだ。だが、ジョー・ライト監督の映画版には伏線が散りばめられている――息をのむ瞬間、手を広げるしぐさ、刃物で切れそうなほど濃密な性的緊張が。

これらの点は、「プライドと偏見」と原作小説を区別する要素のほんの一端に過ぎない。そして、この映画が必ずしもオースティンファンとは言えない人の共感を呼んでいる理由の一つも、ここにある。

ライト監督の「プライドと偏見」は先ごろ、公開20年を記念してリバイバル上映された。そこで、この映画がいまだに観客の身も心も魅了し続けている理由は正確なところなぜなのか、改めて振り返った。

映画版はオースティンの小説からやや逸脱

オースティンの「高慢と偏見」を巡っては、数々のミニシリーズや現代風のハッピーエンド作品が制作されてきたが、原作を忠実に映画化したのはライト監督の作品がわずかに2作目とみられている。1作目はグリア・ガーソンとローレンス・オリビエが共演した1940年の映画だ。

「プライドと偏見」が20年前に公開されるまでは、コリン・ファースがダーシーを演じた1995年のBBCミニシリーズが最も象徴的な映像化作品と考えられていた。5時間を超える長尺のこのバージョンは原作により忠実で、多くのオースティンファンから受け入れられている。

しかしプロポーズのシーンに見られるように、ライト監督が原作に自由な解釈を加えたことが、彼の映画の魅力を高めている。

舞踏会でダンスを踊りながら軽口を交わすダーシーとエリザベス/Moviestore/Shutterstock
舞踏会でダンスを踊りながら軽口を交わすダーシーとエリザベス/Moviestore/Shutterstock
エリザベスの姉のジェーン・ベネットはロザムンド・パイクが演じた/Alex Bailey/Working Title/Kobal//Shutterstock
エリザベスの姉のジェーン・ベネットはロザムンド・パイクが演じた/Alex Bailey/Working Title/Kobal//Shutterstock
ダーシーとサイモン・ウッズ演じるビングリー/ Working Title/Kobal/Shutterstock
ダーシーとサイモン・ウッズ演じるビングリー/ Working Title/Kobal/Shutterstock

近く著書が刊行されるオースティン学者のデボニー・ローサー氏は、95年のBBCのミニシリーズが個人的にお気に入りだというが、学生の間では2005年の映画版の方が人気が高い。時間の経過とともに、ローサー氏もこの映画の良さを認めるようになった。

映画版を際立たせている主な違いの一つは、ライト監督によるダーシーの描き方だ。原作でもおおむね1995年版でも、ダーシーの性格はよそよそしく棘(とげ)がある。ダーシーの感情はほぼ伏せられているため、最初のプロポーズが大きな驚きをもって受け止められる、とローサー氏は分析する。

マクファディンの演じるダーシーは違う。相変わらず超然としているが、より内省的で苦悩に満ちた人物造形だ。観客はエリザベスの存在がダーシーに与える影響をはっきりと目にする。ダーシーは単に鼻持ちならない男ではなく、誤解されて愛に飢えた人物であり、それがエリザベスだけでなく、観客にとっても彼を魅力的な存在にしている。

ダーシーを視聴者の目に魅力的に映るように描こうとしたのはライト監督が初めてではない。実際、この「魅力的なダーシー」という発想は20世紀の翻案の多くに共通して見られる特徴だと、ローサー氏は説明する。だが、ライト監督は一段と前のめりにロマンスの緊張感を描く。その様を目にして、私たちは釘付けになる。

「観客は感情移入にできる対象を手にする」とローサー氏。「ダーシーの性的欲望に関して言えば、視覚的に描かれていると思う」

ここで注目してほしいのが、ダーシーらの滞在先のネザーフィールドで、エリザベスの姉ジェーン(ロザムンド・パイク)が病に伏せる場面だ。エリザベスが訪れると、その格好を「まるで中世ね」と評するキャロライン・ビングリーの声が画面外から聞こえてくる。

だが、カメラはダーシーの視線に焦点を合わせており、観客が泥だらけのドレスや汚れた靴を目にすることはない。むしろ、カメラはエリザベスの大きな瞳と、流れ落ちるような髪を捉え続ける。この点は原作や他の映像化作品とは極めて対照的だ。観客はダーシーの張り詰めた、ぎこちない心の動きを垣間見る機会を与えられる。

手を広げる名高いシーンも見てみよう。大変有名な場面であり、配給元のフォーカス・フィーチャーズはいまやマクファディンの広げた手をプリントしたTシャツやパーカーを販売しているほどだ。このシーンで、ダーシーはエリザベスが馬車に乗るのを手伝う。エリザベスがダーシーに手を預けたまま馬車に乗り込むと、ダーシーは手を離して背を向け、エリザベスが当惑した表情で見つめる中、足早に歩き去る。そして次の瞬間、ダーシーは衝撃を受けた様子で手を広げる――エリザベスとの接触がもたらした感情の電気を解き放つかのように。 

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