映画「プライドと偏見」から20年、今なお観客を魅了する理由は?

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「プライドと偏見」のセットでナイトレイに指示を出すライト監督/Alex Bailey/Working Title/Kobal/Shutterstock

「プライドと偏見」のセットでナイトレイに指示を出すライト監督/Alex Bailey/Working Title/Kobal/Shutterstock

ライト監督はオースティンとは違い、ダーシーの内面と感情を視覚的に垣間見る機会を与えてくれる、とローサー氏。映画の全編を通じて高められた緊張感が観客の注意を奪い、一見何でもないような瞬間さえ熱を帯びる。

ただ、ライト監督の「プライドと偏見」は単なる恋愛物語ではない。ダーシーの内面をのぞかせる映像化作品は多いが、ライト監督は全ての登場人物に焦点を当てている。そう指摘するのは、英レスターのデモントフォート大学で映画史やテレビ史を研究するジャスティン・スミス教授だ。

エリザベスの妹メアリー(タルラ・ライリー)を例に取ろう。エリザベスがコリンズ氏の求婚を断ったと告げると、ライト監督のカメラはメアリーの切なさに満ちた表情を捉える。

「まるで『私が求婚されたら受け入れるのに』と言っているようだ」「そして、彼女の背景にある全ての物語が浮かび上がる」(スミス氏)

ライト監督のちょっとしたヒントのおかげで、すべてのキャラクターが生きてくる、とスミス氏は語る。それも他の映像化作品には見られない形で。登場人物全員の存在感が相まって、観客の没入を促す豊かな世界が築かれる。ライト監督の「プライドと偏見」は恋愛劇にとどまらず、家族の物語にもなり得るのだ。口うるさい母親やきょうだい間の嫉妬(しっと)の物語に共感しない人など、果たしているだろうか?

現在では異なる受け取られ方

ライト監督の「プライドと偏見」は公開直後からヒットを飛ばし、2800万ドルの予算で新鋭2人を中心にしたキャスティングながら、世界興収は1億2100万ドルを超えた。批評家のロジャー・イーバート氏が四つ星の満点評価を与えたことは有名だ。サウンドトラックは軽快なピアノの音や鳥のさえずりに満ち、カメラは起伏に富んだ丘や緑あふれる情景を次々に捉える。1コマ1コマが絵画のようだ。

だが、リバイバル上映が行われる現在は、2005年の初公開時とは時代がまったく異なる。映画館は衰退傾向にあり、識者の間では中規模予算の映画について嘆き声が漏れる。恋愛映画も以前ほどの存在感はない。それで「プライドと偏見」の美しさが損なわれるわけではないが、今日の観客は異なる視点で作品に向き合っている。

エリザベス。友人のシャーロットが経済的な制約からコリンズ氏からのプロポーズを受け入れたことを知った直後の様子/Working Title/Kobal/Shutterstock
エリザベス。友人のシャーロットが経済的な制約からコリンズ氏からのプロポーズを受け入れたことを知った直後の様子/Working Title/Kobal/Shutterstock

1940年版の映画は第2次世界大戦中、士気高揚を目的に製作されたもので、人々はこの作品を見ようと映画館に殺到した。そう説明するのはデモントフォート大学の英文学教授で、アダプテーション(翻案)研究の専門家でもあるデボラ・カートメル氏だ。当時の観客は、「戦うに値する」イングランドを郷愁を込めて描く作品を渇望していた。

カートメル氏は、現在も同様のノスタルジーが作用している可能性があると指摘する。

「この映画を見ていると、20年前が本当に懐かしく感じられる」とカートメル氏。「この激動の時代にあって、本当に心安らかに楽しめる物語だ」

2人が出会って恋に落ちる様子を見ることにも、何か心安らぐものがある。純粋なおとぎ話というわけでは必ずしもないが、どこか自然で真実味があるのだ。恋愛の多くがデートアプリやテキストメッセージで媒介されている今日では、対面の親密さもノスタルジーを誘うのかもしれない、とスミス氏は指摘した。

「映画を見ることで、感情や人間同士の親密さ、物理空間で実際に誰かと知り合う行為がいかに手触りに満ち、生々しいものだったかに改めて気付かされる」とスミス氏。「飛躍があるように聞こえるかもしれないが、私たちはデジタル時代の儀式と慣習に縛られる以前の恋愛にノスタルジーを抱いているのではないかと思う」

ライト監督の「プライドと偏見」は今より自然な形で誰かと出会い、親交を深め、恋に落ちる時代があったことを思い出させてくれる。この点こそ称賛に値すると、スミス氏は語る。

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