OPINION

ロシアは制裁で目を覚ます 西側はここで止めるべからず

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ウクライナ侵攻を受けての西側からの経済制裁に対し、プーチン大統領はどう反応するか/Alexey Nikolsky/Sputnik/AFP/Getty Images

ウクライナ侵攻を受けての西側からの経済制裁に対し、プーチン大統領はどう反応するか/Alexey Nikolsky/Sputnik/AFP/Getty Images

(CNN) ロシアのプーチン大統領が自らの大義を掲げて戦争に踏み切った。隣接する民主主義国を滅ぼし、誇り高く恐れを知らぬその国民を征服するのが狙いだ。事ここに至った以上、他の民主主義諸国が目指すべきなのは、この見当違いの試みがどれほどの痛みをもたらすのかを同氏に最大限思い知らせることだ。

プーチン氏に出口戦略があるのかどうかは判然としないが、今こそ西側がそれを迫る時だ。具体的にはロシアの全金融機関への締め付け強化、ロシア機による自国領空の飛行禁止、さらにロシアの富豪が所有するうまみのある海外資産を凍結するなどして圧力をかける。

デービッド・A・アンデルマン氏
デービッド・A・アンデルマン氏

複数の教訓が、他の長期化した紛争から得られる。最近の歴史を振り返れば、米国とソ連がアフガニスタンであれほどの苦境に陥ったのはまさしく出口戦略の欠如によるものだった。より適当な例を挙げるなら、米国を疲弊させた10年に及ぶイラク戦争もそれが原因だった。

米国による「衝撃と畏怖」作戦はイラクで2003年3月21日に始まり、航空機1700機が空爆を実施したほか、巡航ミサイル504発が使用された。その後およそ2週間で、米軍の地上部隊がバグダッドに到達し、4日間の激しい戦闘を経てイラクの政権は倒れた。4月14日までに、国防総省は主要な軍事作戦が終了したと報告した。

しかし、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領が5月1日に「任務完了」を宣言したにもかかわらず、米国はイラクにおいて一定の戦力を18年が経過した後も保持し続けていた。今後プーチン氏とその取り巻きをウクライナで待ち受けているのは、単純にこうした事態ではないかと思われる。

もちろんウクライナはイラクではないし、プーチン氏はブッシュ氏ではない。それでも当該の紛争は、ロシアの大統領とそれに従う侵攻軍にとってなお警告となり得る内容を含んでいる。同軍はすでにウクライナで激しい抗戦に遭っているが、相手側の決然たる姿勢は当初想定していたであろう水準をはるかに超えるものだった。

イラクで起きたこととの間にはより実質的な違いもある。上記の18年の間、他のいかなる国からも米国経済の破壊はおろか妨害する取り組みさえ一切実施されることはなかった。莫大(ばくだい)なコストを戦争につぎ込んでもなお米国経済は活力を失わず、むしろ好調だった。軍の戦闘能力に悪影響が及ぶこともなかった。

また国内外で一定の抗議活動は起きたものの、米国が大半の同盟国、友好国からの支持を失うことはなかった。各国からのけ者にされ、失敗国家への道を歩む事態には決してならなかった。もし世界の民主主義国がロシアの侵攻を速やかに終わらせたいなら、ある種の経済的な痛手を負わせてロシア政府に戦争の停止を強いる動きが必須となる。

すでにプーチン氏の長年にわたる対外関係の多くは、悪化の危機にさらされている。中国の習近平(シーチンピン)国家主席はプーチン氏を北京冬季五輪に迎え入れ、中国へ30年にわたり天然ガスを供給するユーロ決済での契約に署名したが、今はそれを思い直しているかもしれない。中国はウクライナ侵攻を非難する国連安全保障理事会決議に拒否権を行使せず、公然とロシアによる攻撃への支持を否定した。しかし責めを負うべきは米国とその同盟国だとの見方も示しているようで、報道によるとウクライナへの攻撃を「侵攻」と呼ぶのを拒否した。それでも貿易と金融で欧米に極めて巨額の資金を投じている中国にとって、この戦いで敗者の側に立つリスクは取れないとみられる。

西側に属する長年の友好国の中にさえ、ロシアとの関係を再考する動きがある。フランス大統領選をわずか6週間後に控え、現職のマクロン大統領に挑む極右のマリーヌ・ルペン、エリック・ゼムール両候補、急進左派のリーダーであるジャンリュック・メランション氏はいずれも、かねて好意的なものだったプーチン氏及び同氏の手法への見方を覆した。

一方、ベラルーシのルカシェンコ大統領は混乱への関与を強めてきた。ウクライナの情報機関によれば、ベラルーシはウクライナ侵攻に直接参加する用意があるとみられている。仮にプーチン氏がこのようにして自らの行動を「多国籍の」取り組みと位置付けるつもりなら、ベラルーシにもロシアと同様の制裁が科されなくてはならないことになる。これが最後の一押しとなり、ロシアに与(くみ)する意図を示す唯一の国の支配者がその地位から転がり落ちる可能性もある。

国際社会は、すでにいくつかの措置を発動しているものの、その集団的圧力を維持しなくてはならない。我々がここ数日で帳簿に何を書き付けたかを見てみよう。大手銀行の一部を国際決済ネットワークの国際銀行間通信協会(SWIFT=スイフト)から排除。数多くの大富豪の資産凍結。これはプーチン氏本人も対象になっている。ロシアのあらゆる航空便に対する欧州での飛行禁止措置。英石油大手BPなど巨大多国籍企業によるロシア企業との合弁事業解消。さらには従来こうした措置に消極的だったドイツまでもが、歴史的な武器供与に踏み切った。加えてバイデン氏が発表し、欧州の首脳が日本やオーストラリア、スイスとともに承認したあらゆる制裁がある。それらの規模は、過去いかなる国を対象にした制裁をも上回る。

さらに断固とした制裁を科すことで、プーチン氏が長期的かつ消耗の激しい占領を継続する能力は低下するだろう。そこは完全なる敵方の土地であり、プーチン氏によって取り込まれることは決してない。住民の大半は不俱戴天(ふぐたいてん)の敵という構図だ。

全く征服できる見込みのない国で、終わりのない戦争を追求するプーチン氏には、一体幾つの部隊が必要になるのだろうか? それは途方もない、おそらく現時点で計算不可能な規模だろう。有限かつ減少傾向にある資源を湯水のごとく投入しなければ、ロシア軍を各地の村や町に配備することはできなかった。さらに重要なことに、もしロシアが(ウクライナ当局を引用してロイター通信が報じたように)ハリコフの石油パイプライン及びキエフの貯油施設、空港を狙う必要があったとすれば、つまりウクライナの主要都市内での接近戦が始まる前の段階でそれらを標的にせざるを得なかったとすれば、今後占領するようなものが何か残るだろうか? ロシアは地域住民や自国の占領軍に対し、どうやって物資等の補給を行うつもりなのか?

それでも、ウクライナ人自身が勇敢に敵と戦って引き出す代償以上に、制裁措置は積もり積もって1つの罰となり得るのであり、プーチン氏のような独裁者をも躊躇(ちゅうちょ)させる可能性さえある。逆に制裁の反動によって外部の世界が悪影響を被るかもしれないが、そうした代償が現在ウクライナ人の払っている犠牲に全く見合わないものだなどと、果たして信じられるだろうか?

結局のところ、プーチン氏には2000億ドル(約23兆円)もの資産がある。ロシアの財務事情の専門家、ビル・ブラウダー氏の推計によるこの額は、米アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏(1770億ドル)と米宇宙企業スペースXのイーロン・マスク最高経営責任者(1510億ドル)の両者を上回る。プーチン氏は自身の富の流入元も所在も非常に注意深く隠匿しているため、それを見つけることさえほとんど不可能かもしれない。凍結ともなればなおさらだ。

同時に、ロシアの銀行システムは非常に入念にドル経済から隔離されている。ドル資産のすべてもしくは大半を国庫から除外し、国の負債を3000億ドル(対国内総生産<GDP>比18%)にまで圧縮している。これに対し米国の負債は31兆ドル(同133%)だ。SWIFTからの排除をロシアの全金融機関に拡大すれば、相当効果的に、これ以上ないほどの取り付け騒ぎを全国規模で起こすことができるだろう。

締め付けを強化すべき点はまだある。西側諸国は悪影響を被る覚悟もしなくてはならないが、それで最悪の結果が生じたとしてもウクライナの国民が現在こらえている状況に比べればまず取るに足らない。石油と天然ガスはロシアの権力と国富の基盤だ。しかしこれまでのところ、どちらもいかなる制裁の対象にもなっていない。ロシア産石油の禁輸措置に踏み切れば、間違いなくプーチン氏の注意を引くだろう。

制裁の強度にもよるが、禁輸は世界中で物価の急騰を引き起こす可能性がある。ガスバディーの石油担当アナリスト、パトリック・デハーン氏は、ロシアからの石油の流れが何らかの形で制限されれば、ガソリン価格の「途方もない値上がり」も想定外ではなくなると示唆。それでも今は、中途半端な施策や腰の引けた対応をする時ではない。はるかに多くのものが危機にさらされているのだ。

奇妙なやり方で、プーチン氏は自らが数十年取り組みながら失敗してきたことを成し遂げた。海外にいるプーチン氏の崇拝者らも達成できていなかったそのこととは、これまで亀裂が入っていた欧州と大西洋の同盟の結束だ。なかなか意見の一致を見ない傾向にある欧州と米国の関係を最終的にどう維持していけるのかは全く明確ではないが、ともかくプーチン氏は、たとえ不注意からであるにせよ、極めて効果的に民主主義の力と民主主義的精神とを実証して見せた。そしてそれ自体がまさしく、あらゆる犠牲を払ってでも維持すべきものなのである。

デービッド・A・アンデルマン氏はCNNへの寄稿者で、優れたジャーナリストを表彰する「デッドライン・クラブ・アワード」を2度受賞した。外交戦略を扱った書籍「A Red Line in the Sand」の著者で、ニューヨーク・タイムズとCBSニュースの特派員として欧州とアジアで活動した経歴を持つ。記事の内容は同氏個人の見解です。

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