OPINION

トランプ氏支持者らの選挙「司令部」、実態はクーデター企図した作戦指令室

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選挙結果を覆そうとしたトランプ氏支持者らの具体的な活動の実態が明らかになった/Brendan Smialowski/AFP/Getty Images

選挙結果を覆そうとしたトランプ氏支持者らの具体的な活動の実態が明らかになった/Brendan Smialowski/AFP/Getty Images

(CNN) 昨年の12月末までに、同年の米大統領選の結果を覆すべきだと要求できる誠実な根拠は出てこなかった。当時のトランプ大統領は訴訟を起こして結果を変えようとしたものの失敗に終わり、様々な州での票の数え直しを経てジョー・バイデン氏の勝利が確定した。選挙人団の投票結果も、バイデン氏が次期大統領であることを認めた。

ディーン・オベイダラー氏
ディーン・オベイダラー氏

しかし米紙ワシントン・ポストが先ごろ報じたように、こうした当時の状況をものともせず、トランプ氏の支持者らは首都ワシントンのウィラードホテルに「司令部」を立ち上げ、「2020年大統領選の結果をひっくり返す」というただ一点に目標を定めて活動していた。

ポスト紙の伝えた「司令部」の詳細は驚愕(きょうがく)すべきものだった。当初の拠点はマンダリン・オリエンタルホテルで、設置にはトランプ氏の個人弁護士のルディ・ジュリアーニ氏と元ニューヨーク市警本部長のバーナード・ケリック氏が携わった(覚えている読者もいるかもしれないが、ケリック氏は10年、税金詐欺や政府当局者への虚偽の発言など8つの重罪で有罪を認めた。その後20年2月にトランプ大統領から恩赦を与えられている)。

この「作戦指令室」は後にウィラードへ移り、ホワイトハウスにより近づいた。当初は20年の大統領選の結果を再検証し、望まぬ結果に異議を唱える選択肢をトランプ氏に助言するのが目的とみられていたが、詳細な報道が明らかにしたように、この選挙「司令部」は公明正大な戦略チームというよりは、クーデターの企てを執拗(しつよう)に求める集団のように運営されていた。そこで火急の問題となるのは、将来同じことを試みる大統領を出さないために何をするのかということだ。

ジュリアーニ、ケリック両氏と並び「司令部」のメンバーとして報じられた人物の一人にスティーブ・バノン氏がいる。同氏は20年8月にメキシコ国境の壁建設をめぐる自らのキャンペーンで大金をだまし取ったとして起訴されたが、この時は500万ドルの保釈金を払って保釈されていた。

トランプ氏が大統領職を辞する数時間前に恩赦を与えられたバノン氏は最近、1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件を調査する下院特別委員会の召喚を拒否。これを受けて下院は先週、同氏を議会侮辱罪で刑事訴追するよう求める決議案を賛成多数で可決した。下院での動きは、今後ガーランド司法長官がバノン氏を訴追するのかどうか決定することを意味する。どうもトランプ氏のみならず、同氏の周囲の人々もまた、自分たちが法を超越した存在であると考えているようだ。

はっきりさせておくが、弁護士をはじめとする人々を雇い選挙結果の再検証をさせる行為は全く違法ではない。不正やその他の疑わしい行為があったのかどうかを確認し、選挙結果に異議を唱える訴訟を起こす目的でそうした対応は行われる。なるほど、トランプ氏の弁護士と支持者らは20年大統領選をめぐる法廷争いをしぶとく展開。60以上の訴訟を起こしたが、1件を除いてすべて敗れた。その1件はペンシルベニア州での影響の小さい訴訟で、不在者投票における救済措置をめぐる裁判だった。

全体を通してみれば、トランプ氏を支持する弁護士らは日々法廷に立ち、詐欺を含むあらゆる種類の選挙不正を主張したものの、結局は敗れた。トランプ氏自ら指名したウィリアム・バー司法長官でさえ、12月1日には「選挙の結果を変え得るほどの規模での不正は確認できなかった」と宣言した。

ところが12月末になっても、ポスト紙が報じたように、トランプ氏のチームは依然としてウィラードホテルからのたゆまぬ努力により、その「異なる結果」を勝ち取ろうとしていた。この秘密結社が立てた作戦は、ペンス副大統領に圧力をかけて翌年1月6日に議会がバイデン氏の勝利を認証するのを根拠もないまま阻み、選挙結果を各州に差し戻してさらなる調査を行うという内容だった。

選挙の不正を示す信頼に足る証拠が一切ない以上、その調査が何についてのものになるはずだったのかはわからない。ただ時間稼ぎをして、何とか下院でトランプ氏が大統領に選ばれるよう仕向けることくらいだっただろう。バノン氏らは以前からそれを強く促していた(いずれの大統領候補も獲得した選挙人の数が270人に届かない場合は、下院で各州の代表が1票を投じ、大統領を選出する。共和党は過半数の26人の代表を抑えていたので、理論的には大統領選で敗れていてもトランプ氏を選出することが可能だった)。

トランプ氏の特別補佐官を務めたボリス・エプシュテイン氏はポスト紙の取材に答え、ペンス氏について「憲法上の権限から事案を各州に差し戻せる」とみていたと説明。「10日間で大規模な不正の調査を行い、1月20日の就任式前に余裕をもって報告を返す。(中略)我々が注力して取り組んだのは、そうしたメッセージを送ることだった」と述べた。

連邦議会議事堂で暴力行為が発生した時には、「トランプ大統領の立場とメッセージに沿う形で、同氏の弁護団は、ありとあらゆる暴力が受け入れられないものであることを即座に明言した」(エプシュテイン氏)

さらに憂慮すべきなのは、ポスト紙が報じているように、1月2日の時点でトランプ氏がジュリアーニ氏ら保守派の弁護士と並んで電話会議を通じ、共和党の州議会議員300人余りに選挙結果の「認証を取り消す」よう強く促したことだ。不正が疑われるというのがその根拠だった。伝えられるところによるとトランプ氏は、これらの議員に「あなた方こそが真の権力だ」と告げた。同氏にとって、我が国の民主主義を陰で支えるのは共和党の州議会議員であり、米国の有権者ではなかったということだ。

電話会議の参加者の一人だったミシガン州の上院議員、エド・マクブルーム氏はポスト紙に対し、トランプ氏の声に耳を傾け、自身の州の結果を変えるような選挙不正の証拠が提示されるのかどうか確認したと説明。結局そのような証拠は一切挙がらなかったため、ミシガン州の結果の認証を取り消す要求を退けたという。

証拠がない状況にもかかわらず、会議に出た共和党の州議会議員数十人はペンス氏宛てに書簡を送り、バイデン氏の勝利の認証を10日遅らせるよう求めた。「そうすれば我々の属する各グループが顔を合わせ、調査し、集団として選挙を認証するか認証を取り消すかを採決できる」とした。彼らはトランプ氏の望む通り、同氏が権力の座にとどまれるように行動していたが、我が国の裁判所は、トランプ氏の任命した判事らも含め、選挙結果を覆したいという同氏の望みをことごとく退けた。だがトランプ氏は我が国の法も裁判所の決定も気にかけず、何が何でも権力の座にとどまることにひたすら集中していた。

これはクーデターの企てさながらだ。戦車が街路に押し寄せる光景だけがクーデターではない。それは違法な試みによって人々の意思を覆し、権力を保持し続けようとする行為自体を指す。ではもし、失敗に終わったクーデターの首謀者が罰せられないとしたら、彼らが将来同じ行動に出るのをどうやって止められるというのか?

結果的に、司法省が対処しなくてはならない問題は次の通りとなる。果たしてトランプ氏のチームが取った行動は、連邦選挙に対する介入の共謀といった、連邦犯罪の域にまで達しているのか? 少なくとも法学教授の一人は、これを肯定する考えを示している。

しかし我らが民主共和国を支持する者であれば、20年の大統領選を覆そうとした水面下の行動について読んだ後で、それが危険でも間違いでもなかったなどとはとても思えないだろう。また仮にこのような行動がどういうわけか現行の我が国の法には違反していないというのなら、議会は速やかにこれを犯罪とする法律を制定する必要がある。さもなければ、この次は、正当な選挙結果をひっくり返そうとする試みが成功してしまうかもしれない。

ディーン・オベイダラー氏は元弁護士で、現在は衛星ラジオ「シリウスXM」の番組司会者やニュースサイト「デイリー・ビースト」のコラムニストを務める。記事の内容は同氏個人の見解です。

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