OPINION

新型コロナ、世界の健康に対する考え方を永遠に変える ビル・ゲイツ夫妻が寄稿

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ビル・ゲイツ夫妻が、新型コロナのパンデミックによる世界の変化について論じた/The Gates Notes LLC

ビル・ゲイツ夫妻が、新型コロナのパンデミックによる世界の変化について論じた/The Gates Notes LLC

(CNN) 昨年の今ごろ、世界はまだ新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)がどれほど深刻なものとなり得るかについて理解し始めたばかりだった。

「Covid―19」という単語を初めて聞いてからわずか数週間で、我々は自分たちの基金のオフィスを閉鎖し、世界の数十億人の人々とともに従来とは極端に異なる生活様式への適応に取り組んだ。我々にとって以後の日々は、ぼやけたビデオ会議の映像やぎょっとさせるニュースの警告通知、電子レンジで加熱する料理になった。とはいえ、我々は自分たちが他の人々に比べていかに恵まれているかを十分認識している。過去1年間、新型コロナで死亡した人は全世界で200万人超。罹患(りかん)した人はさらに膨大な数に上り、世界経済は壊滅的な不況に陥った。

昨年の隔離期間中、自宅で仕事をするビル・ゲイツ氏/Gates Notes
昨年の隔離期間中、自宅で仕事をするビル・ゲイツ氏/Gates Notes

パンデミックの苦しさを経験する中でつくづく思い知らされたのは、途上国に暮らす多くの人々がすでに十分すぎるほど知り尽くしていることだった。それは、健康こそがあらゆる社会の繁栄にとっての基盤だという事実である。もし、あなたが健康に問題を抱えていたら、あるいは命にかかわる病気に罹患する不安にさいなまれていたら、それ以外のことに集中するのは難しい。健康な状態でいるのはあなたにとっての最優先事項となり、必要ならほかのすべてを犠牲にするのもいとわなくなる。

もし、あなたが米国のような富裕な国に住んでいるのなら、おそらく昨年になって初めて、感染症で生活が一変するという事態に見舞われたのではないだろうか。そうなった理由は、高所得の国々において感染症はもはや疫学者が言うところの「重要な健康への負担」ではないからだ。しかし低所得国ではマラリアや結核といった感染症が依然として主要な死因であり、感染性の高い病原菌に対処するため生活を合わせていくことは残念ながら今に始まったことではない。(毎晩蚊帳<かや>をつって寝ている多くの人々に聞いてみればわかる)

昨年の隔離期間中、自宅で仕事をするメリンダ・ゲイツ氏/Pivotal Ventures
昨年の隔離期間中、自宅で仕事をするメリンダ・ゲイツ氏/Pivotal Ventures

ところが2020年、国境も地形も気にしないウイルスが世界中で人々の暮らしを根底からひっくり返し、富裕国と貧困国との間にあった違いは部分的に崩壊した。その中で、新たな意味合いが「グローバル・ヘルス(世界的な健康)」という用語に盛り込まれた。

かつて「グローバル・ヘルス」は、万人にとっての健康、あらゆる地域における健康といった意味ではほとんど使われていなかった。むしろそれは、裕福な国の人々がそうではない国の人々の健康を指す際に用いる言葉だった。つまり「途上国の健康」と同義だったのである。もしあなたが過去10年の間に開かれた健康に関する世界的な会議に出席したとしたら、ウガンダで流行する疾患について耳にする機会の方が米国での疾患の話よりもはるかに多かっただろう。

しかしこの1年で状況は変わった。2020年、グローバル・ヘルスはそれぞれの地域の問題になった。我々全員が直接目の当たりにしたのは、行ったことのない場所で発生した聞いたこともない疾患がどれほどのスピードで蔓延(まんえん)し、公衆衛生上の緊急事態を自分のごく身近な場所で引き起こし得るのかということだった。Covid―19のようなウイルスが思い起こさせるのは次のような事実だ。我々の間にどれほど違いがあろうとも、この世界に住むすべての人々は細菌と微粒子からなる極小のネットワークでつながっている。そして好むと好まざるとにかかわらず、我々は皆、その中でともに生きている。

おそらく歴史は今後、現在の状況をパンデミックがもたらした最悪の日々として思い出すだろうが、ようやく希望の兆しも見えてきている。あなたがこの記事を読むまでには、あなた自身か、あなたの知っている人がすでに新型コロナウイルスのワクチンを接種している可能性がある。これらのワクチンがすでに利用できる状態にあるという事実は、かなり注目に値すると我々は考えている。すべては極めて大規模な、世界的に例を見ない公衆衛生上の取り組みの賜物(たまもの)だ。いかなる国や企業も、この偉業を単独で成し遂げることはできなかっただろう。世界中の資金提供者が共同で出資し、競合する企業同士が研究結果を共有した。取り組みに関わった全員が幸先のいいスタートを切れたのは、何年にもわたるテクノロジーへの世界的な投資のおかげだ。こうした資金が助けとなり、ワクチン開発の新たな時代が幕を開けた。

もちろん、安全で有効なワクチンの開発は物語の始まりにすぎない。今、世界が行わなくてはならないのは、それらのワクチンを接種が必要なすべての人々に配布することだ。高所得国にも低所得国にも同様にである。すべての人々にワクチンが行き届くまでは、新たな集団感染が今後も世界中で発生し、命は失われ続けるだろう。だから我々は、米国がGaviワクチンアライアンスに40億ドルを拠出したのを見て喜んだ。この資金は米国の最新の新型コロナ救済パッケージの中に盛り込まれたものだ。Gaviは中・低所得国へのワクチン配布で重要な役割を果たすだろう。賢明な政策立案者ならわかることだが、世界のあらゆる地域で勝利を収めなければ、我々は新型コロナに勝つことができないのである。

我々は2人とも、次のように楽観的にとらえている。現在我々が経験しているパンデミックは、グローバル・ヘルスについての人々の考え方に長期的な変化をもたらすだろうと。低所得国の衛生を改善することは、海の向こうに暮らす人たちの命を救うだけでなく、次の世界的な諸課題に打ち勝つために我々を一段と有利な状況へと導く。裕福な国々が今後、こうした理解を深めることを願っている。

ちょうど第2次世界大戦が我々の親の世代にとって決定的な出来事だったように、現在の新型コロナのパンデミックは我々の世代を決定づけるものとなるだろう。そして大戦を経た各国がより大規模な協力関係の下で平和を守り、公益を優先しようとしたように、現在の世界も1つの重要な機会を迎えていると我々は考える。この機会を生かせば、パンデミックという苦難に満ちた教訓から、もっと健康的で、誰にとってもより平等な未来を実現することができるはずだ。

ビル・ゲイツ氏とメリンダ・ゲイツ氏は慈善団体「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」の共同議長。この記事は夫妻による2021年の年次書簡に基づくもの。記事の内容は夫妻の個人的な見解です。

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