古代エジプト人の全ゲノムを初めて解析 意外な祖先が明らかに
祖先をたどれば
チームは男性の歯根の先から複数の小さなサンプルを採取し、あごの骨に歯を固定している「セメント質」を調べた。セメント質はDNAの抽出に適した組織だと、ガードランド・フリンク博士は説明する。
抽出された七つのDNAのうち、保存状態の良い二つの塩基配列が解読できた。チームはこの情報を現代人3000人あまり、古代人805人のゲノムと比較した。
さらに男性の歯に含まれる同位体の比率を測定し、子ども時代の環境や食生活を推定。ナイル渓谷の高温で乾燥した気象環境や、小麦と大麦、動物性たんぱく質やエジプト産の植物を中心とした食生活が浮かび上がった。
だが男性のゲノムの20%は、時代をさらにさかのぼったメソポタミアからのサンプルに最も近かった。これは、どこかの時点でかなり多くの人々がエジプトへ流れ込んだことを示唆しているという。
またチームのメンバーの1人、英リバプール・ジョン・ムーア大学のジョエル・アイリッシュ博士が男性の歯と頭がい骨を計測したところ、西アジア人に最も近いという結果が出た。
専門家らによると、エジプト文明が始まったころからのエジプト人がもともと北アフリカに住んでいた人々だったのか、あるいは現代のシリア、レバノン、イスラエル、パレスチナ自治区、ヨルダンやトルコの一部を含む地中海東部沿岸の「レバント地方」からやって来たのかという議論はずっと前から続いてきた。
今回の成果を機に、古代エジプト史の遺伝学的研究が進むことが期待されている。
謎に包まれた埋葬

遺骨は現在、英リバプールの世界博物館に保管されている/Garstang Museum of Archaeology, University of Liverpool
チームが男性の骨格から推定したところによると、身長が152センチあまり、年齢は44~64歳の範囲で、特に64歳に近かったとみられる。これは当時にしてはかなり高齢で、現代の80代前後に相当するという。
遺伝子解析によれば、目と髪の色は茶色で、肌の色は濃かったようだ。
骨には関節炎と骨粗しょう症の跡があり、下を向いた前かがみの姿勢で長時間過ごしていたことがうかがえる。筋肉の痕跡から、両腕を前に伸ばし続け、重い物を運んでいたとも推定される。座骨が極端にふくらんでいるが、これは何十年も硬い面に座り続けた人に起きる現象だ。
アイリッシュ博士は古代エジプトのさまざまな職業を検討し、同じ頃エジプトに伝わった「ろくろ」で土器を作る職人だったという仮説を立てた。ただ職人にしては丁重に埋葬されていることから、人並外れた技能を持っていたり成功を収めたりして、高い階級に上り詰めた人物だったとも考えられる。