Architecture

NYの摩天楼に変化の兆し、「スレンダー」な高層ビルが続々登場

ニューヨークの「111W57」。2019年のオープン時には世界で最もスレンダーな高層ビルになる見通しだ

ニューヨークの「111W57」。2019年のオープン時には世界で最もスレンダーな高層ビルになる見通しだ/JDS DEVELOPMENT GROUP/PROPERTY MARKETS GROUP

エンパイアステートビルにアールデコ様式のクライスラービル、超高層のワン・ワールド・トレードセンター。米ニューヨークには世界でも有数の象徴的な高層ビルが立ち並ぶ。

だが現在、同市の有名なスカイラインに加わるビルに異変が起きている。ビルが細くなってきているのだ。

一例として挙げられるのはマンハッタンのミッドタウンに建設中の「111W57」だ。2019年の完成時には高さ435メートルとなる。セントラルパークを一望する眺めを提供するだけでなく、幅と高さの比率が1:24と世界で最もスレンダーな高層ビルになる見通しだ。

一方、ロシアでも都心に同国初となる「スレンダーな」超高層ビルの建設が進んでいる。モスクワに拠点を置く建築事務所メガノムが手がける「空中の棚」は、高さ308メートルに達する見込みで、スレンダー比率は1:20となる。

スレンダーな高層ビルとは何か

高層ビルの場合、建物の「スレンダー度」は見る人の目には分からない。この分野では、スレンダーという言葉は専門的な技術用語だ。建築史家のキャロル・ウィリス氏によると、この言葉をビルに適用できるかどうかは、構造物の基礎の幅と高さの比率によって決まる。

構造エンジニアは一般に、最小で1:10や1:12の比率を「スレンダー」と見なしているという。

ウィリス氏は、「ニューヨークのスレンダーなビルは高層建築史の展開として独自のものだ。単に高いビルとは違う」と指摘。また、ビルのスレンダー比率の決定については、厳密な計算に基づいていないことも多いとして注意を促した。

スレンダー比率1:12の「ワンマディソン」
スレンダー比率1:12の「ワンマディソン」

なぜスリム化するのか

ウィリス氏によれば、スレンダーさを打ち出す技術・開発上の戦略が初めて登場したのは2007年ごろ。ニューヨークに最初に現れた「スレンダー建築」として、高級コンドミニアムの「ワンマディソンパーク」と「スカイハウス」を挙げる。

背景にあったのは、ニューヨークの複雑な区画法だという。同市ではこうした規制により、一定区域内で建物を建てられる土地面積を制限しているが、そこには抜け穴があり、「空中権」をひとつの区画から別の区画へと移転させることができる。

このため開発業者はまず小さな土地を買い、続けて隣接する区画の空中権を購入。これらを積み上げることで、高層タワー建設の許可を取得することが可能になる。

細い高層ビルの増加にあたっては、技術面の進展も寄与した。

ニューヨークの不動産コンサルタント企業ミラー・サミュエルの最高経営責任者(CEO)、ジョナサン・ミラー氏は、「素材や技術の進歩により、この10年で『超高層』ビル、特に占有面積が従来より小さいビルを建設することが可能になった」と話す。こうした「超高層」の分類には、高さ300~600メートルのタワーが入る。

周囲の建物から目立つ

開発業者は通常、投資に対するリターンを第一に求めるが、それと同時に、市場の注目を集めるような独自の構造物を作りたいとの考えもある。スレンダーな設計はこの基準に当てはまる。

「111マレー」。スレンダー比率1:9で、高さは241.4メートルだ
「111マレー」。スレンダー比率1:9で、高さは241.4メートルだ

マンハッタンのトライベッカにある「111マレーストリート」を例に取ろう。湾曲したガラスの外壁を備え、コンシェルジュ付きのプライベートジェットなどの豪華サービスも利用できるようになる見通しだ。

あるいは、建築家のラファエル・ビニオリ氏が設計した「125グリニッジストリート」。ビルの骨組みとして機能する二つの梁(はり)によって支えられている。この結果、柱の使用を最小限に抑え、内部により大きなスペースを確保することが可能になった。

高い、細い、見栄えが良い

建物のスレンダー度は高さによって定義されるわけではないが、スレンダーなタワーは確かに高くなる傾向にある。

ウィリス氏は、「私の窓からはこうしたスレンダータワーのひとつが見える。60階建てだ」と語る。30階以上の高層部からは街並みが一望できるといい、人々が追加の資金を払いたくなるような高級感が加わると指摘する。

ミラー氏も同意見だ。「多くの場合、こうした新しい世代の建物は前世代の2倍近い高さで、50階から100階近くに及ぶ場合もある。ただ、基礎部分の面積は従来よりも小さい」と話す。

超高層のスレンダービルは地域の魅力向上にもつながり得る。ミラー氏は「こうした新しい種類のビルは、必ずしも(従来の意味での)一等地に建っているわけではない。むしろその高さは、評価が未知数の住宅地において『道を開拓する』のに活用されることが多い」と語る。

香港の高級タワーマンション「ハイクリフ」
香港の高級タワーマンション「ハイクリフ」

世界標準に?

スレンダーな高層ビルが好まれる場所はニューヨークだけではない。

香港では2003年、高さ252メートル、75階建ての高級タワーマンション「ハイクリフ」がオープンした。香港はニューヨークと同様、不動産価格が世界有数の高騰を示しており、建物を建てる空間も際立って少ない。

一方、オーストラリアのメルボルンでは、73階建ての「エリジウムメルボルン」の建設許可が下りた。最も狭い箇所の幅はわずか12メートルと、同市で最も高くスリムなビルになる見通しだ。

細いビルの流行がどれだけ続くのか、引き続き目が離せない。

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