欧州、ついにロシア産エネルギーを制裁対象に

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モスクワ近郊ビドノエの石炭ヤードから原料炭を持ち上げる=1月24日/Andrey Rudakov/Bloomberg/Getty Images

モスクワ近郊ビドノエの石炭ヤードから原料炭を持ち上げる=1月24日/Andrey Rudakov/Bloomberg/Getty Images

ロンドン(CNN Business) ウクライナ首都キーウ(キエフ)近郊のブチャでの惨状を受け、欧州各国の首脳はロシアからの石炭輸入を段階的に停止する計画だ。

欧州連合(EU)の行政府に当たる欧州委員会は5日、年間40億ユーロ(約5400億円)相当のロシア産石炭の段階的輸入禁止を提案した。これはロシアのプーチン大統領の軍資金をさらに減らすことを目的とした5回目の制裁の一環で、新たに100億ユーロ相当のロシアのテクノロジーや製品の輸入禁止措置も盛り込まれている。

2月下旬にロシアの戦車がウクライナに侵攻して以来、欧州はロシア経済に懲罰的制裁を科してきたが、エネルギー産業を対象にするには至っていなかった。だがそれもここまでだ。つい最近までロシアの占領下におかれていたブチャで丸腰の民間人が拘束状態で射殺(しゃさつ)され、道端に横たわる光景を見て、各国首脳は方向転換を確信した。

石炭禁輸の具体的な時期など、追加制裁の詳細は6日に行われるEU大使級会合で発表されるとみられている。制裁実施には加盟全27カ国の承認が必要だ。

石炭への制裁は一部の欧州国を悩ませることになるだろう。だが石炭は脱却がもっとも楽なエネルギー源だ。すでに世界の大半は脱石炭に動いている。厄介なのはその後だ。

欧州に向かうロシア産石炭の量

国際エネルギー機関(IEA)によると、2020年ロシアはオーストラリア、インドネシアに次ぐ世界第3位の石炭輸出国だった。最大の顧客はダントツで欧州だ。

IEAのデータによれば、同年に欧州が輸入したロシア産無煙炭は5700万トンだった。一方中国向けは3100万トン。EU統計局(ユーロスタット)によれば、輸入したロシア産無煙炭は同年の欧州の輸入の半数以上にあたる。

だがEUはこの時すでに、世界でもっとも汚染源となる化石燃料に背を向けつつあった。

エネルギー関連のシンクタンクのエンバーによれば、17年から19年にかけてEUの石炭火力発電量は29%減少し、ここ数年着実に下降傾向にある。

天然ガス価格が史上最高値をつけたため、欧州の石炭需要は昨年一時的に増加したものの、今後も安定して下降傾向をたどるだろうとIEAは見ている。ロシアのウクライナ侵攻以前から、総輸入量は24年までに6%減少すると予測されていた。

一方、他国がロシア産石炭の輸入に踏み切る可能性はある。IEAの予測では、24年の石炭輸入はインドで4%、東南アジアでは6%以上増加する見込みだ。同機関が12月に発表した報告書によれば、中国の習近平(シーチンピン)国家主席がオーストラリア産石炭の輸入を禁止したのを受け、ロシアは中国への輸出増ですでに利益を得ている。

EUの禁輸が石炭価格に及ぼす影響

そうはいっても、供給不足は――たとえ段階的だとしても――ポーランドやドイツなどいまだ電力源の多くを石炭で賄う国にとっては悩みの種となりうる。

IEAの分析によれば、供給不足に加えて中国での需要回復が重なったことで、世界の石炭価格は21年10月に史上最高値を記録。その後下落に転じた。

だがEUがロシア産石炭を禁輸すれば、石炭価格の高騰は長引くことになるだろう。情報提供会社ICISのデータによれば、欧州の石炭価格の指標となるロッテルダム石炭先物市場の4日の終値は1トンあたり257ドルだったが、直近では1トン295ドルで取引された。

Source: Refinitiv  Graphic: Tal Yellin, CNN
Source: Refinitiv Graphic: Tal Yellin, CNN

ICIS欧州エネルギー炭素部門のマシュー・ジョーンズ主任分析官は、石炭禁輸により「すでに逼迫(ひっぱく)している欧州の供給状況がさらに悪化し、急いで代わりの石炭の供給源を探さなければならなくなるだろう」とCNN Businessに語った。

「(制裁案の)ニュースを受け、インターコンチネンタル取引所(ICE)のロッテルダム石炭先物は直近限月で前日の終値からおよそ15%、1年ものでは13%増加した」ジョーンズ氏は付け加えた。

それでもEU諸国は石炭ショックにもちこたえられるだろう、と考えるのは米調査会社ユーラシア・グループのエネルギー気候資源部門主任、ヘニング・グロスタイン氏だ。同シンクタンクは5日、EUがオーストラリア産の石炭を輸入すれば打撃を緩和できるはずだと発表した。

「ロシア産石炭を大量消費している欧州の電力会社は石炭への制裁で困難に直面するだろうが、エネルギー企業はこれに対処できる」とグロイスタイン氏はCNN Businessに語った。

残る制裁対象

今回の制裁ではロシアからの石油と天然ガス供給にまったく触れていない。ユーロスタットによれば、20年にEUが輸入した原油の26%、天然ガスの46%がロシア産だ。

だが石油禁輸は選択肢に上っている。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は5日に声明を発表し、EUは「石油輸入に関するものも含め、追加制裁を検討している」と述べた。

すでに米国は戦略的石油備蓄に手をつけ、ガソリン価格の抑制とロシア産石油の供給減対策として1億8000万バレルを国際市場に放出した。IEAも先週行われた緊急会議で、加盟国による石油の追加放出を承認した。

天然ガスが制裁対象となる可能性はいまだゼロに近い。ロシアのエネルギーに大きく依存している加盟国と、ロシア経済の中枢に一刻も早く打撃を与えたい国々との間で意見が食い違っているのが一因だ。

EU諸国はロシア産天然ガスの消費量を年内に66%減らし、27年までにロシア産エネルギーへの依存から脱却すると宣言した。

さらに一歩踏み込んだ国もある。リトアニアのシモニテ首相は3日、「今後リトアニアは有害なロシア産ガスを1立方センチメートルたりとも消費しない」とツイートした。一方、ドイツやハンガリーといった輸入依存国を抱き込むのはより困難だろう。

だがグロイスタイン氏によれば、EUが石油や天然ガスへの制裁に及び腰なのは自分たちの身を守る以外にも理由があるという。

「ウクライナの戦況に応じて、対応を強化していきたいというのがEUの希望だ」と同氏は言う。「今ブリュッセルがもっとも厳しい制裁を科したら、ロシアの攻撃が激化した時にどう対処しろというのか?」

グロイスタイン氏の話では、ロシア産石油とガスを制裁対象にすれば、反動をまねく恐れもある。

「こうした措置が引き金となって、ロシアが大幅に事態を拡大させるのではないかという深刻で確かな懸念がある。軍資金がまもなく枯渇するかもしれないと知ったプーチンが、追い詰められて大胆かつ迅速な行動に出るかもしれないからだ」

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