気候危機、解決の鍵は牛 農耕と牧畜合わせた再生型農業とは

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農耕+牧畜、再生型農業で気候危機乗り切る 南ア

南アフリカ・ライツ(CNN) 気候危機から地球を守るために野菜中心の食事を推奨する声が高まりつつあるが、今、農業の形を変えるもう1つの「革命」が密かに進行している。

「われわれが取り組んでいるのは自然界の再現だ」と語るのは、南アフリカのフリーステイト州で酪農を営むダニー・スラバート氏だ。

スラバート氏は、飼育する牛の数を大幅に増やすことにより土地を活性化しているという。まず、弱い電流が流れる柵で囲った長方形の草地に牛たちを集める。数時間後、牛たちが囲いの中の草を食べつくしたところで柵を上げる。すると、牛たちは急いで次の区画に移動する。

集団で草を食(は)むスラバート氏の畜牛/David McKenzie
集団で草を食(は)むスラバート氏の畜牛/David McKenzie

牛たちは、移住動物の群れのように常に動き回り、決して草を選んで食べることはしない。この手法は「超高密度放牧」と呼ばれる。「この牛たちのおかげで土地が活性化する」とスラバート氏は言う。

牛たちは草を食べると、家畜と同様にふんをする。スラバート氏はひざまずき、牛のふんの中からフンコロガシをそっとつまみ上げた。

「このフンコロガシこそ、この物語に登場するヒーローの1人」とスラバート氏は言う。小さなフンコロガシがふんを細かく砕き、大きなフンコロガシがこの「天然の肥料」を土壌の奥深くまで運ぶ。

農業の「革命」に欠かせないヒーローの1人だという小さなフンコロガシ/David McKenzie
農業の「革命」に欠かせないヒーローの1人だという小さなフンコロガシ/David McKenzie

従来、牛は気候変動に悪影響を及ぼすと考えられてきた。実際、世界の二酸化炭素(CO2)排出量の約14%は家畜が排出している。カリフォルニア大学デービス校によると、1頭の牛が1年間に「げっぷ」により排出するメタンガスの量は推定で約100キロにも及ぶという。世界には10億頭以上の牛が存在し、温室効果ガスの排出量も膨大だ。

しかし、牛は肥育場で太るために進化したわけではない。草原には、スラバート氏の農場のように、数多くの野生の牛がいる。

テキサスA&M大学のリチャード・ティーグ教授率いる研究チームの調査で、そこまで効果的とは言えない放牧システムでさえも畜牛の排出量を上回る量の二酸化炭素を地中に封じ込めることが分かった。世界の地表の3~4割は自然草地であり、食料安全保障の可能性は計り知れないとティーグ教授は言う。

すべては土次第

気候に優しい農業の鍵は土だ。なぜなら、土は二酸化炭素を蓄える驚くべき能力を秘めているからだ。世界の土壌には大気中の3倍以上の二酸化炭素が含まれており、農業用の土壌は、うまく管理すれば、将来は今よりもはるかに多くの二酸化炭素を吸収できると科学者らは言う。

気候危機との戦いにおいては、わずか数パーセントポイントの変化でも大きな違いを生む。無論、土壌が吸収できる二酸化炭素の量にも限界はあるが、その限界に達するのにあと数十年はかかる。

植物は光合成によって大気から二酸化炭素を吸収し、根から地中に送り込むが、有機物や微生物を通じて地中に蓄えられる二酸化炭素量は植物による吸収量を上回る。人間は、化石燃料の燃焼などにより温室効果ガスの大半を大気中に放出しているため、大気から二酸化炭素を取り除くことが重要だ。

しかし、土壌が二酸化炭素を蓄えるには、土壌に活気があり、ある程度邪魔をせずに放置する必要がある。

世界の農家たちは、何十年にも渡って畑を耕し、肥料をやり、除草剤をまいてきた。土壌は近代農業では生きている必要はなく、農薬や肥料などの投入物のための媒介になってしまった。一方、そこに至るまでに地中の二酸化炭素も失われた。

多くの農家や科学者らは化学革命が犠牲を伴うものだったと指摘しており、土壌を生き返らせたいと考えている。生きている土壌は、持続的生産(収穫した分を自然の生態系が補い、持続的な収穫が可能な状態)を原動力として、地球にとってプラスに働くというのが彼らの主張だ。

それを実現するためには、牧畜と農耕を組み合わせなくてはならない。

びっしりと密集して植えられたスラバート氏のトウモロコシ/David McKenzie
びっしりと密集して植えられたスラバート氏のトウモロコシ/David McKenzie

北米や南アフリカでは、商業的農業、耕種農業、牛の牧場は通常、別々の農家が別々の土地で行っている。しかし、再生型農業の鍵は牧畜と農耕の2つを組み合わせることにある。スラバート氏は自身のトウモロコシ畑を決して耕さず、土地を休ませる。そうすることにより土壌内の二酸化炭素を維持できる。トウモロコシは密集しているので、スラバート氏が畑に入って除草剤をまく必要はない。

冬に、スラバート氏の牛たちがこのトウモロコシ畑に来て、残ったトウモロコシを食べ、畑を去る時に天然の肥料を残していく。この方法により、スラバート氏の肥料や農薬の費用は大幅に減ったが、生産量は高水準を維持している。

ではなぜ、すべての農家がこれを行わないのか。

従来の農業にこだわる理由

1つの理由として、農薬離れには時間を要する。また農薬を使用しないと短期的に生産量が減る可能性がある。

より多くの作物を作るべきという圧力が農地を変えてしまった。今や広大な土地が1度に1種類の作物を作るために使用されている。

生産量の点では、この方法は効果があった。米農務省によると、米国内だけで1948年から2015年までに農業生産は170パーセントも増加したという。

しかし、確かにこの方法は短期的には生産高の増加につながるが、耕作、施肥、化学農薬の使用は、土壌の長期的健康を劇的に阻害することが複数の調査で明らかになっている。農務省の推定では、米国の農家が2015年に植物生産に使用した肥料の量は約200億キロに上る。

ピューリッツァー賞を受賞したジャーナリスト、アート・カレン氏は、歴史的に見て、農薬の使用を制限し、土壌を活性化させる農業を企業が推進するインセンティブはほとんどなかったと指摘する。また米国の農家は、政府の支援を受け、市場の需要を上回る量のトウモロコシやその他の作物を植えている。

「気候危機は、二酸化炭素を地中に隔離し、農家にそのための費用を助成することにより解決可能だ。草を植えて、何もしない代わりに1ドル多く支払うと農家に持ち掛ければ、農家は毎回その話に乗るだろう」とカレン氏は言う。

気候危機を乗り切る

米国とは違い、南アフリカの農家はこれといった助成金は受け取っておらず、自分の農場を機能させなければ失職してしまう。

スラバート氏の農場がある地域では、世界平均の倍の速度で気温が上昇している。ここ数年の深刻な干ばつで代々受け継がれてきた農場や生活が失われた。

しかし、干ばつに見舞われると、一般の農家は行き詰るが、再生型農業を営む農家は生き残ることが調査で明らかになっている。彼らの農場には高い保水力があり、放牧システムが丈夫な草を育てるためだ。

牧牛とトウモロコシ生産を組み合わせた再生型農業についての手ごたえを語るスラバート氏/David McKenzie
牧牛とトウモロコシ生産を組み合わせた再生型農業についての手ごたえを語るスラバート氏/David McKenzie

スラバート氏の農場も、気候変動を乗り切るうえで威力を発揮する。さらに地球規模で見ても、再生型農業は気候変動の解決に寄与する可能性がある。

スラバート氏は「われわれは農家として、また土地や土壌に関わる人間として、原点に立ち返る必要がある」と述べ、「(従来のやり方を)変えるのは非常に困難で時間もかかるが、(変えようと思えば)変わるし、変える必要がある」と付け加えた。

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