マンモス復活プロジェクトが始動、ゾウを遺伝子操作 16億円の資金獲得

マンモス復活プロジェクトを担う企業「コロッサル」が15億円の資金を調達した/Jean-Marc Zaorski/Gamma-Rapho/Getty Images

2021.09.14 Tue posted at 16:15 JST

(CNN) 絶滅した生物の復活といえば、これまでSFの世界の出来事だった。映画「ジュラシック・パーク」の恐竜を復活させるという物語はその典型だった。

しかし遺伝学の進歩によって、失われた動物の復活は現実の出来事になりつつある。絶滅危惧種のクローン作製や、とうに絶滅した動物の骨や死骸から採取したDNAの配列決定を成功させた研究もある。

ハーバード大学医学校のジョージ・チャーチ教授率いる遺伝学研究チームは13日、4000年前に絶滅したマンモスの復活を目指すプロジェクトが1500万ドル(約16億5000万円)の投資を確保したと発表した。氷河期時代の巨大なマンモスをよみがえらせ、自然環境で生息させる未来を描いている。

マンモスを復活させれば、北極圏のツンドラ地帯の生態系を回復させ、気候危機とたたかい、マンモスに近い絶滅危惧種のアジアゾウを保護する助けになると関係者は期待する。ただしこの計画は倫理的問題もはらんでいる。

研究チームの目標は、マンモスのクローン作製ではない。永久凍土の中で凍結されていたマンモスのDNAを抽出することには成功したが、このDNAは断片化や劣化が激しくクローン作製は不可能だった。そこで遺伝子を操作して、外見はマンモスと区別がつかないゾウとマンモスの雑種を作り出すことを目指している。

同プロジェクトを支援する生物科学・遺伝子会社コロッサルをチャーチ氏と共同で設立した起業家のベン・ラム氏は、「4~6年以内に最初の赤ちゃんを誕生させることを目指す」とした。

チャーチ氏は「2021年まで、これは一種の棚上げされたプロジェクトだった。だが今、それが実現可能になった」と指摘する。

チャーチ氏は最先端の遺伝学者で、人間への移植に適した臓器をもつブタ作製の実績などで知られる。

人間に臓器を移植できるブタを作製するためには42の遺伝子改変を必要としたと同氏は説明。「ゾウの場合、目標は違っても改変の数はそれほど変わらない」と話す。

チャーチ氏によると、研究チームはこれまでに23種のゾウと絶滅したマンモスの遺伝子を解析した。アジアゾウが北極圏で生存・繁殖できる特徴を獲得させるためには、アジアゾウの遺伝情報に「50あまりの改変」を同時にプログラミングする必要があると推定している。

そうした特徴には、10センチの断熱脂肪層、最大で長さが1メートルある5種類の体毛、寒さに耐えられる小さな耳などが含まれる。象牙目当ての密猟者に狙われないよう、牙が生えないようにする遺伝子操作も試みる。

ジョージ・チャーチ教授

そうした特徴を兼ね備えた細胞のプログラミングに成功すれば、人工子宮を使って胚(はい)から胎児へと成長させる計画。ゾウの場合、この過程には22カ月を要する。ただ、この技術はまだ確立には程遠いとして、生きたゾウを代理母として使う可能性も排除していない。

「編集は順調にいくと思う。それに関して我々には豊富な経験がある。人工子宮の作製は保証されていない。これは純粋な工学ではなく、科学の要素が多少あり、そのために不確実性が増し、実現までに時間がかかる」とチャーチ氏は話している。

マンモスの進化を専攻するストックホルム古遺伝学センターのロベ・ダレン教授は、この取り組みには科学的な価値があると考える。特に遺伝の病気があったり、近親交配で遺伝の多様性が失われている絶滅危惧種の保全に役立つという。

ただ、ここで生まれる動物はマンモスではなく、毛の長くて脂肪を蓄えたゾウだとも指摘。マンモスをマンモスたらしめる遺伝子の手がかりはほとんどないと語る。

一方、遺伝子操作した動物を誕生させる目的で、生きているゾウを代理母として使う点に倫理上問題があると指摘する声もある。ダレン氏は、マンモスとアジアゾウは人間とチンパンジーぐらい違うと語る。

また、ロンドン自然史博物館のマンモスの専門家トーリ・ヘリッジ氏は「マンモスを復活させて北極圏に住まわせ、北極圏を炭素の貯蔵庫としてより適した場所にするという考えには多くの問題がある」と指摘する。マンモスなどの草食動物が極北の地で草原を維持し、草を踏みつけ木を倒し、雪を圧縮することで永久凍土を保つという考えには、ダレン氏もヘリッジ氏も根拠がないと考える。ダレン氏は「マンモスをそこに置くことで気候変動に影響を与えられると示すものは何もない」と語る。

結局のところ、これまで述べられたような生態系の設計者としてのマンモス復活の目標は重要ではないかもしれない。多くの人々がマンモスに似た動物を近い距離で見てみたいと望む可能性がある。

ラム氏によると、このプロジェクトでは収益獲得へのプレッシャーはゼロだという。生命工学や医療の分野への応用がきくイノベーションにつながる可能性があり、ラム氏はプロジェクトをアポロ計画になぞらえる。同計画は宇宙探査について人々を心配させたが、結果的にGPSなど多くのすばらしい技術につながったと同氏は語る。

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