太陽光パネルの供給網、新疆の強制労働に依存か<上> 米エネルギー政策の要に影

太陽電池セルの生産ラインで最終チェックを行う従業員=2015年、中国江蘇省常州市の工場/Tomohiro Ohsumi/Bloomberg/Getty Images

2021.05.22 Sat posted at 13:30 JST

(CNN Business) 中国の新疆はここ20年間で、太陽光パネル製造に必要な部品を世界に供給する多くの企業にとって、主要な生産拠点に成長してきた。

しかし新たな研究によると、こうした仕事の大半は、ウイグル族など新疆の民族的・宗教的少数派への搾取に依存している可能性がある。気候変動対策に欠かせない再生可能エネルギー源のサプライチェーン(供給網)は大部分が強制労働に「汚染」されている可能性があるという。

今回の報告書は14日、「白昼堂々――ウイグル強制労働と世界の太陽光サプライチェーン」との題名で発表された。クリーンエネルギーの構成要素は環境に悪い石炭と強制労働で作られている可能性があるという、憂慮すべき実態の証拠を提示している。

中国は新疆での人権侵害疑惑について繰り返し否定してきた。

CNN Businessは中国外務省に報告書に関するコメントを求めたものの、回答は得られていない。ただ、外務省の華春瑩報道官は12日、新疆での強制労働が太陽光パネルのサプライチェーンを汚染しているとの疑惑について聞かれ、「言語道断のうそ」との見方を示した。

華報道官は記者団に対し、「一部の欧米諸国や反中国勢力はこれまで、新疆の綿花栽培産業におけるいわゆる『強制労働』をでっち上げることに躍起になっていた。それが今度は太陽エネルギー産業をやり玉に挙げている。新疆の綿にはシミひとつなく、太陽エネルギーもクリーンそのものだが、この問題をでっち上げる欧米の人間には暗い悪意がある」としている。

太陽光パネルの主要材料となるポリシリコン(多結晶シリコン)の生産をめぐっては、新疆での強制労働が利用されているとの疑いがかねて提起されてきた。しかし今回の研究では、サプライチェーンの起点となる原材料の石英に関しても、採掘と加工に強制労働が利用されている実態が示されている。

報告書は「太陽エネルギーに対する世界的な需要を受け、中国企業は環境への責任を可能な限り安く済ませることに注力してきた」「だが、それに伴い、サプライチェーンの起点で働く労働者は多大な犠牲を強いられている」と指摘する。

報告書は英シェフィールドハラム大学のヘレナ・ケネディ国際司法センターで人権と現代奴隷制について研究するローラ・マーフィー教授と、ウイグル自治区で19年間生活していたサプライチェーンアナリストのニロラ・エリマ氏が共同執筆した。エリマ氏のいとこは新疆の収容所に送られており、CNNは以前、同地に住むエリマ氏の家族について報じたことがある。

報告書は中国語、ウイグル語、英語に堪能な強制労働とサプライチェーンの専門家複数人の力を借りて編集された。企業の公開情報や政府発表、国営メディアの記事、ソーシャルメディアの投稿、産業リポート、衛星画像を数百点を引用し、30社以上について各社のサプライチェーンに強制労働が存在しないか調査した結果を詳述している。

米政府はかねて、新疆に住むウイルグル族などのイスラム教徒少数派のうち、最大200万人が再教育施設に収容されていると主張。欧米政府や人権団体は同地域の少数派をめぐり、虐待や洗脳の試み、強制労働の対象になっていると訴えてきた。ITや農業、毛髪貿易を含む多くの産業に対し、サプライチェーンの問題を指摘する声が寄せられている。

一方、中国政府は新疆での人権侵害を繰り返し否定。同地域にある施設は「職業訓練センター」であり、職業スキルや中国語、法律を学ぶ場だとしている。

厳重警備施設の監視塔。この施設は再教育キャンプとみられる建物の近くにある=2019年5月

今回の報告書を受け、中国が世界の太陽光発電産業に占める役割の大きさに改めて厳しい視線が注がれそうだ。市場調査会社バーンロイター・リサーチによると、中国は各種の太陽光パネル部品の世界能力のうち71~97%を占める。新疆だけで世界の太陽電池級ポリシリコンの生産の半分近くを占め、業界大手の工場が集まる場所でもある。

一方、多くの国は汚染物質の高い電源からのシフトを進める中で、太陽光が重要な再生可能エネルギーになると見込んでいる。国際エネルギー機関(IEA)によると、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーは、今後10年間の発電量の伸びの80%を占める可能性がある。

米国では今後10年間で、2020年末時点の3倍の太陽光発電能力が整備される見通しだ。欧州連合(EU)では昨年、風力や太陽光のような再生可能エネルギー源から得られる電力が化石燃料を初めて超え、今後も太陽光利用の伸びが続くとみられている。

太陽光産業と新疆における強制労働がつながっている疑いが発覚したことで、こうした計画に大きな影響が出る可能性がある。より環境に優しい未来に寄与したいと考えながら、知らず知らずのうちに強制労働や石炭発電でつくられた部品を含む製品を買っているかもしれない消費者や企業にも影響がありそうだ。

「ウイルグル族の生活はこんなではなかった」

中国政府はこの4年間、新疆で巨大な厳重警備の収容所を運営しているとの疑惑の数々にさらされてきた。元収容者はCNNに対し、施設内で政治的洗脳や、食料や睡眠を奪われる虐待を受けたと証言している。

中国に対しては、これまでも強制労働を助長しているとの批判が出ていた。米税関・国境警備局(CBP)は強制労働への懸念から、新彊産の綿花やトマト、毛髪製品の輸入をこのほど禁止。英国やEUも同様の制限を検討している。

新疆のモスク付近を走る通り=2019年8月5日

一方、中国は新疆の少数派労働者に産業施設への移転を促す「余剰労働力」プログラムの運用について隠していない。中国共産党の説明によると、こうしたプログラムでは労働集約的な産業で働かせる目的で、住民数百万人を新疆農村部の町や農場から、地域および国内全域の工場に組織的に移住させてきた。

中国政府は同プログラムについて、貧困緩和と宗教的過激主義の抑制に必要だと説明。しかし、太陽光パネルに関する報告書をまとめた研究者らは、こうしたプログラムの背後にはもっと暗い真実があると指摘する。

シェフィールドハラム大のマーフィー氏は、「新疆には激しい人種差別が存在することを理解する必要がある」と指摘。「こうした貧困緩和プログラムの基本的な前提は、ウイルグル族は自分では貧困から抜け出せない、あるいは貧困状態の方が良いと思想的に植え付けられ自ら貧困を望んでいるというものだ」と語る。

報告書によると、「労働力移転」プログラムには太陽光パネルの供給業者に安価な労働力を提供するという側面もある。

マーフィー氏とエリマ氏によると、ウイグルの小村の出身者は産業拠点で激しい肉体労働に従事するため、数百キロあるいは数千キロ離れた場所への移住を強いられている。報告書に引用された国営メディアの記事によると、職場に移住させられた後は、成人のカップルが他の労働者と一緒に寮のような宿泊施設に収容されることもある。

エリマ氏は「ウイルグル族の生活はこんなではなかった」「私たちは家や庭を持ち、両親や姉妹と一緒に住んでいた。それが今や突然、ある人は都市に住み、その両親は介護施設で暮らし、子どもたちは別の孤児院にいる状況になった。一体、ここで何が起こっているのか」と訴える。

報告書によると、ウイグル族などの少数民族がこうした仕事を拒否したり離れたりした場合、自らや家族が収容所で拘束される可能性があるという。

「太陽光パネルの供給網、新疆の強制労働に依存か<下>」は5月29日に公開予定

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