生活苦にさらされる米大学の非常勤教員

大学の非常勤講師が生活苦に

2013.10.11 Fri posted at 09:30 JST

(CNN) 米ペンシルベニア州で先月、83歳の女性が貧困のうちに病死した。地元紙ピッツバーグ・ポストガゼットによれば、女性の困窮ぶりを知りったケースワーカーは、その職業を聞いて驚愕(きょうがく)したという。

「大学教授だったんですか?」

教授とは言っても、亡くなったマーガレット・メアリー・ボイトコさんは地元デュケーン大学の非常勤教授だった。25年にわたってフランス語を教えてきたが、非常勤ゆえに給料は安く、職場の医療保険にも加入できなかった。

そして今年、ボイトコさんは解雇手当も退職金ももらえないまま契約を切られた。

デュケーン大学の非常勤教員の最低賃金は、1講座あたり2500ドル(約25万円)だった。全米鉄鋼労働組合(USW)が同大学の非常勤教員に組合を結成させようとしたところ、3500ドルに増額されたという。

ボイトコさんの置かれていた厳しい状況は、米国の大学においてはけっして珍しい話ではない。

米国の大学では、安い給料で使われる非常勤教員が大きな戦力となっている。全教員のうち、非常勤が占める割合は49.3%。終身在職権を得られない教員も19%に達する。

非常勤教授は米国における「ワーキングプア」の一員だ。雇用形態は不安定で、生前のボイトコさんのように貧困ゆえに生活が医療費に圧迫される可能性もある。

ボイトコさんに大学で教鞭をとるに足る能力があるのに、なぜ大学は福利厚生面などで相応の処遇をしなかったのだろうか。

これまで米国の大学関係者は、大学を卒業することは中流階級への切符だと学生たちに説いてきた。そうであれば、さらに高学歴な教員たちがひどい待遇に甘んじている現状は、とうてい正当化できるものではない。

デュケーン大学は1億7100万ドル(約170億円)もの基金がある。またカトリックでは団体交渉の権利が支持されている。このような状況で大学側の対応は釈明が難しい。

デュケーン大学は同大の関係者がボイトコさんの置かれた状況に対するケアをしたと説明する。だがそのような慈善行為が懸命に働いてきた非常勤講師との雇用契約の上で適切な処遇だとはいえない。

問題はボイトコさん個人のレベルではない。大学教員の多くを低賃金で従事させる労働環境の構造に対して、集団的に対処することが必要だ。デュケーン大学は非常勤講師による組合を認め、団体交渉に応じ、ボイトコさんの名を冠した基金を創設すべきだ。

問題は「我々は労働者をどう扱うのか」ということだ。世界で最も裕福な国にいながら、社会の大部分の人々を貧困のふちに追いやるような雇用環境を許容し続けるのか。それとも、労働者全員に報いるために人々の意思を束ねていくのか。大学の関係者は、ボイトコさんのたどった運命は自分たちを待つ暗い未来だと認識し、もっと公平な未来を模索する必要がある。

非常勤の教員たちの間からは、現状打破に向けた動きが始まっている。待遇改善を求める団体に加わる人もいるし、全米各地の大学では非常勤教員の組合を結成する動きも出ている。各種手当や生活するに足る給料といった労働条件の向上は、学生や大学にとっても利益になるというのが非常勤教員たちの主張だ。

誰もボイトコさんが経験したような処遇を受けてはならない。アメリカの高等教育は学生を導く教師にもっと報いることができるし、そうすべきだ。

本記事は米アリゾナ大学で高等教育を研究するゲイリー・ローズ教授によるものです。記事における意見や見解はすべてローズ氏個人のものです。

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