タイムトラベル実現に捧げる人生、物理学者R・L・マレット氏に聞く

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米国の天体物理学者ロナルド・L・マレット氏は、タイムトラベルを可能にする理論の研究に数十年間取り組んでいる/Scott Eisen/Bloomberg via Getty Images
写真特集:時間旅行の夢実現へ、米科学者の挑戦

米国の天体物理学者ロナルド・L・マレット氏は、タイムトラベルを可能にする理論の研究に数十年間取り組んでいる/Scott Eisen/Bloomberg via Getty Images

(CNN) 「過去」は昔から外国に例えられてきた。そして、時にわれわれはその外国に行きたいと切望する。

現在、実在する数人の科学者が、時計の針を巻き戻し、過去に戻る夢の実現に取り組んでいる。その1人である米国の天体物理学者ロナルド・L・マレット氏は、成人期の大半を「タイムトラベルは可能」との信念に捧げてきた。

マレット氏はこれまでに、タイムマシン開発の基礎になる(と本人が主張する)数々の科学方程式や科学原理を生み出してきた。

自身の理論や構想で自分が生きている間にタイムトラベルを実現できる可能性は低いと認めつつも、同氏は長年、学者の仕事と並行して、過去に戻って最愛の父と再会する夢の実現に取り組んできた。

マレット氏の父は、マレット氏が10歳の時に心臓発作で急死した。この父の死がその後の人生の進路を大きく変えたという。

1950年代、ブロンクス・パークで過ごすマレット氏一家 /Courtesy Ronald Mallett
1950年代、ブロンクス・パークで過ごすマレット氏一家 /Courtesy Ronald Mallett

テレビの修理工だった父は、息子を読書好きに育てるとともに、当時、芽生え始めていたマレット氏の科学への情熱を後押しした。父の死からおよそ1年後、悲しみに暮れていたマレット氏は、古典SF小説「タイムマシン」の絵本と出会った。

「この本が私の人生を変えた」とマレット氏は言う。

同小説の著者であるH・G・ウェルズの想像力のおかげで、マレット氏は、父の死は「終わり」ではなく「始まり」だと感じた。

それから60年の月日が流れ、74歳のマレット氏は、現在、コネティカット大学で物理学の教授を務め、自身のキャリアのすべてをブラックホールと一般相対性理論の研究に捧げてきた。一般相対性理論は、ドイツ生まれの物理学者アルベルト・アインシュタインが研究したことで知られる宇宙、時間、重力の理論だ。

またマレット氏は、タイムトラベルの理論化にも取り組み、その過程で、過去に戻れるタイムマシンの開発に乗り出した。

タイムトラベルを可能にする科学

マレット氏の理論は、すべてアインシュタインの特殊相対性理論と一般相対性理論に依存しているという。

「アインシュタインの理論を一言で言えば、時間は速度の影響を受けるということだ」とマレット氏は言う。

タイムトラベル実現の鍵となる公式を示すマレット氏 /Courtesy Ronald Mallett
タイムトラベル実現の鍵となる公式を示すマレット氏 /Courtesy Ronald Mallett

例として挙げるのは、光速に近い速度で飛行するロケットで宇宙を旅する宇宙飛行士だ。地球上とそのロケットの中では、時間の流れ方が異なる。

「地球に戻ってきた宇宙飛行士らは、(地球を出発してから)わずか2~3歳しか歳を取っていないように感じるが、地球上では数十年が経過している」とマレット氏は言う。

さらに1968年公開の古典SF映画「猿の惑星」を引き合いに出す。

(訳注:ネタばれ注意)この映画のラストシーンで、1人の宇宙飛行士は、自分は猿が支配する遠い惑星にたどり着いたのではなく、人類が猿に支配されている世界滅亡後の地球に戻ってきただけだと悟る。

マレット氏は、「あのシーンは、アインシュタインの特殊相対性理論を正確に表現している」とし、「つまり、特殊相対性理論によると、高速で移動している人はその分時間においても移動している。事実上、それがタイムトラベルだ」と付け加えた。

しかし、これはあくまで未来に向かって前進するだけで、過去に戻ることはない。では、この理論は、亡き父との再会を目指すマレット氏の取り組みにどのように役立つのか。

映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」では、「ドク」ことエメット・ブラウン博士が自動車型のタイムマシンを開発した/Universal Studios
映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」では、「ドク」ことエメット・ブラウン博士が自動車型のタイムマシンを開発した/Universal Studios

アインシュタインの一般相対性理論は、重力の概念に基づいており、時間が重力によってどのように影響を受けるかを考える。

「つまり、アインシュタインが主張しているのは、重力が強ければ強いほど、時間はゆっくり流れるということだ」(マレット氏)

アインシュタインの一般相対性理論では、一般に「重力」と呼ばれているものは、実は「力」ではなく、巨大な物体によって生じる空間のゆがみと説明される。

「空間をゆがめることができれば、空間を曲げることも可能」とマレット氏は言う。

「アインシュタインの理論では、一般に空間と呼ばれるものには時間を伴う。(中略)時空と呼ばれるのはそのためで、空間に何かをすると、同じことが時間にも起こる」(マレット氏)

マレット氏は、時間をループ状に曲げることにより、未来に行ったり、過去に戻ったり、そして再度未来に戻ることができると断言する。

またマレット氏は、リングレーザーと呼ばれるものを利用することにより、光を使って時間に影響を与えることも可能と指摘する。

同氏は試作品を通じ、レーザーが果たしうる役割を示した。それはレーザーを使った装置でグルグル回る一筋の光線を生み出し、その効果で空間と時間をねじ曲げるというものだった。

「リングレーザーによって生み出された重力場を研究することにより、タイムマシンの可能性を検討する新たな方法が見つかるかもしれない。円状に回る一筋の光がその基礎になる」(マレット氏)

マレット氏は、この理論がうまくいくことを証明する(と本人が主張する)理論方程式も生み出した。

「最終的に、円状に循環する一筋のレーザー光線が一種のタイムマシンの機能を果たし、時間のねじれを生む。これにより、過去に戻ることが可能になる」(マレット氏)

しかし、1つ問題がある。それもかなり大きな問題だ。

「情報を(過去に)返送できるが、マシンのスイッチを入れる時点にしか返送できない」とマレット氏は言う。

1950年代に戻るというマレット氏の取り組みは実現には程遠いものの、同氏は依然として楽観的であり、可能性を模索し続けている。

過去に戻り、父親と再会したいというマレット氏の願いはかなうのか/Courtesy Ronald Mallett
過去に戻り、父親と再会したいというマレット氏の願いはかなうのか/Courtesy Ronald Mallett

タイムトラベルの現実

近い将来、タイムトラベルが日常の現実の一部となる日が来るのだろうか。

マレット氏は「映画のようにはいかない」とし、「いくらかのお金を出して映画のチケットを購入し、その2時間後に実現するものではない。この取り組みには(多大な)コストがかかる」と付け加えた。

タイムトラベルの概念を説明する際、同氏は映画を例に出すことが多い。

過去に戻ることの倫理的問題について尋ねると、マレット氏は国際的な規制や取り締まりが必要になるだろうと述べ、具体例としてジャン=クロード・ヴァン・ダムがタイムトラベルを規制する機関の捜査官を演じた1994年公開の映画「タイムコップ」を挙げた。

2014年公開のクリストファー・ノーラン監督の映画「インターステラー」もマレット氏のお気に入りだという。この映画は、宇宙にいる人々と地球上の人々では時間から受ける影響がどれだけ違うかを描いている。

この映画は、ノーベル物理学賞を受賞した理論物理学者キップ・ソーン氏も科学コンサルタントとして制作に参加しており、科学的信頼性は高い。しかし、マレット氏はこの映画の核心部分でもある父と娘の物語も高く評価しており、「大変素晴らしい映画」と絶賛する。

マレット氏お気に入りの映画だというクリストファー・ノーラン監督の「インターステラー」
マレット氏お気に入りの映画だというクリストファー・ノーラン監督の「インターステラー」

映画の魔法

マレット氏は、これまでハリウッド関係者の訪問を数回受けた。2008年に共同執筆した自伝「ザ・タイムトラベラー」の映画化の話があったが、結局実現には至らなかった。

マレット氏によると、ある大手映画制作会社が同自伝の権利を買い取り、今、別の映画化プロジェクトが進行中だという。

生涯をタイムトラベルの研究に捧げても、マレット氏が物理的に1950年代のニューヨークに戻ることはできないかもしれない。それでも映画の魔法の力を借りて「外国」である過去の世界を垣間見るなら、その時に父との再会を果たす可能性はある。

マレット氏は、「もし映画館の大画面で父と再会できれば、まるで父が生き返ったような気持ちになるだろう」と、しみじみと語った。

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